■粘り勝ち! 執念で釣った尺イワナ

高低差で勢いを増した水流が、さらに岩で区切られて複雑な流れとなっています。そこから逃れるような反転流が目に付きました。覆い被さるような岩陰には、まず間違いなく良型のイワナが潜んでいそうです。ふたたびドライフライを結んで漂わせます。
5周ほどさせても出てこないので、打ち直してさらに流し続けて……。2分ほどそうしていると、ふいに大きな頭が吸い込むようにフライを咥えました! しっかりと反転して沈んでいくのを確認して合わせたのですが、フライは宙を舞って頭上の枝に引っかかっていました。
ようやく出たイワナ、しかも尺に届きそうな良型でした。すっかり意気消沈、河原の岩に腰掛けてしばし呆然としていました。5分、10分、どれくらい経ったのでしょう。小気味よい瀬音に励まされるように立ち上がりました。反転流は何事もなかったかのようにゆっくりと渦を巻いています。
先ほどのフライはもうすっかり乾いていました。そっとフライを落として今度はさっきより長い時間、もう出てくれないかもしれないと弱気になったとき、水面が割れました! 身を翻したイワナの重さがしっかりとロッドに伝わってきます。流心に逃げ込まれたり、底石の奥に逃げ込まれてひやっとさせられましたが、どうにか手元に寄せて無事にネットイン!

よくわからない雄叫びを上げながらネットを掲げていました。山道を歩くこと3時間半、釣り上がること3時間経った場所ですので、誰に聞かれることもありません。恨めしそうにこちらを頭の大きな尺イワナ。妙に頭の大きさが目立ち、まだまだ大きくなりそうです。

その後は同じように粘って一つ一つのポイントをじっくりと時間をかけてフライを流していると魚が出てきてくれるようになりました。タイミングによっては“出るところだけ”をサクッと探りながら釣り上がることもありますが、それではこの日のコンディションではまったく釣れなかったかもしれません。ただ、一箇所で粘っていると遡行に時間がかかりすぎます。後半はロッドを畳んで退渓ポイントまで急ぎ足で向かいました。
帰り道は2時間ほど、麓に着く頃には脚がすっかり棒のようになっていました。集落のなかを仕事帰りの知人が何人も車で通り過ぎていきます。なんだか一日渓で遊んでいた自分が恥ずかしく、気づかれないようにそっと目を伏せるのでした。