今年の夏は記録的な猛暑となっている。東京都心では6月の真夏日が観測史上最多を更新し、身の危険を感じるような暑さが続いている。あまりの暑さに、釣行をためらっている人も多いのではないだろうか。とはいえ、釣り好きにとって、夏をまるごとスルーするのはやはりもったいない話である。

 そんな人に今回おすすめしたいのが、短時間でも十分に楽しめる「テナガエビ釣り」だ。昔から夏の風物詩として親しまれ、数釣りも型狙いも楽しめる人気ターゲットである。仕掛けがシンプルで、初心者や子どもでも気軽に挑戦できるのも魅力のひとつ。今回は、都心から車で30分。埼玉県戸田市にある荒川の汽水域を訪れ、気温が上がる前の午前中に、短時間勝負でテナガエビ釣りに挑んだ。

■都市近郊の好ポイント!  荒川で楽しむ夏のテナガエビ釣り

今回、テナガエビ釣りに訪れたのは荒川の下流域(埼玉県戸田市エリア)

 夏の釣り物として昔から親しまれてきたテナガエビ。細長いハサミを持つ特徴的な姿と、心地いい引き味、さらに食べても美味しいことから、多くの釣り人に人気のターゲットである。特に6月から8月にかけてが最盛期で、手軽に数釣りが楽しめるため、子ども連れの家族やカップル、初心者にも好まれている。

テナガエビはその名のとおり、立派な長い手を持つのが特徴(メスはオスほど長くない)

 今回筆者が訪れたのは、関東屈指のテナガエビ釣り場として知られる荒川の下流域(埼玉県戸田市エリア)。河口から約30kmのこのエリアは、潮の満ち引きの影響を受ける汽水域。こうした環境はテナガエビにとって最適で、生息数も多い。毎年多くの釣り人が訪れるこのポイントは、都心から車で約30分とアクセスもよく、夏の暑い時期の短時間釣行にもぴったりである。

荒川の河川敷からの眺め。遠くに見えるビル群は川口市の中心街

■すき間を狙え!  テナガエビ釣りの基本とアワセの秘訣

このような消波ブロックのすき間の奥の暗がりにテナガエビが潜んでいる

 今回の釣行では、荒川の川岸に並ぶ消波ブロック(通称:テトラポッド)のすき間を狙った。テナガエビは夜行性で、日中は直射日光を避けて消波ブロックや捨て石(護岸のために大量に入れられた石のこと)などの陰に身を潜めている。こうした障害物まわりのすき間を丁寧に探ることが、釣果を伸ばすコツである。

 釣り方はシンプルで、長さ2m前後のノベ竿を使った玉ウキ釣りが一般的。エサにはアカムシ(ユスリカの幼虫)や、小さく切ったミミズがよく使われる。今回はアカムシを1匹チョン掛けにし、テトラのすき間へそっと落とし込んで探った。アタリがすぐ出ることも多いが、焦ってアワセてしまうのは禁物である。

筆者が使用したエサは生きたアカムシ。ハリにはチョン掛けでとりつけた

 テナガエビはエサを見つけても、まず安全な場所まで運んでから口にする習性がある。玉ウキが動いている間は、まさにその最中。動きが止まったら食べ始めのサインだが、ここでもまだ油断は禁物。さらに10〜20秒待ってから、ゆっくり仕掛けを持ち上げてみよう。口にハリが掛かっていれば、「クンクンッ」と心地よい引きが竿先に伝わるはずである。

 なお、潮の動きも釣果を得るうえで重要な要素だ。満潮や干潮の潮止まりはテナガエビの活性が落ちやすく、潮が緩やかに動く「上げ」や「下げ」の時間帯にアタリが増える傾向がある。釣行の際は、潮周りを意識した計画を立てるといいだろう。

■6月末の下げ潮釣行!  短時間勝負でテナガエビ39匹

シンプルな玉ウキ仕掛けで釣れた荒川のテナガエビ(オス)

 筆者が訪れたのは6月末。日中は猛暑日になるとの予報が出ていたため、暑さのピークを避け、午前中の釣行を計画し朝6時から釣りを開始した。この日の潮回りは中潮で、朝6時が満潮、昼過ぎの13時前後が干潮というタイミングだった。

 釣り始めは潮止まりの影響かアタリは少なく、しばらくは我慢の時間が続いた。しかし、開始から1時間ほど経過し、潮の引きに合わせて水位が下がり始めると状況が一変。アタリが一気に増え、竿を2本に増やして対応すると、休む暇もないほどの忙しさとなった。

良型のテナガエビ(オス)が釣れると嬉しさのあまり口元が緩んでしまう
釣りエサに誘われてテトラのすき間からモクズガニが姿をあらわした

 今シーズン初のテナガエビ釣りということもあり、不慣れによるバラシも多かったが、最終的には39匹をキャッチ。サイズは10cm前後の小ぶりのものが多かったが、なかには14cmを超える良型も混じった。このまま干潮の潮止まりまでは釣れ続く可能性も十分にあったが、気温の急上昇とともに体力を消耗してしまったため、無理をせず午前10時に納竿とした。4時間という短時間勝負ではあったが、ほぼ期待通りの釣果を得ることができ大満足の釣行となった。

この日のテナガエビ釣果は4時間で39匹(ほかにヌマチチブが1匹釣れた)
家で食べるため大きなオスだけを生きたまま持ち帰ることにした(他の個体はすべてリリースした)

筆者の使用タックル
ロッド:小物竿 長さ2.1m
仕掛け:市販のテナガエビ釣り用のセット仕掛け2号前後(玉ウキ、シモリウキ仕掛け)
予備のハリ:水中の障害物周りを探る釣りのため根がかりが多い。予備のハリは必須
エサ:生きたアカムシ(ユスリカの幼虫)

【あると便利な道具】
ピンセット:ハリを外す際に使用
エサ入れ:エサが乾燥するのを防ぐ
水汲みバケツ:釣ったエビを生きたまま一時的に入れておく魚入れ
クーラーボックス:エビを生きたまま家に持ち帰るために使用
エアーポンプ:クーラーボックスに入れたエビに酸素を供給するためのポンプ。エビを生きたまま家に持ち帰る際は必須のアイテム
小型アクリル水槽:釣ったエビを横から観察可能
日よけ&日焼け止めグッズ:川岸は日を遮るものが無いため必須のアイテム
虫よけグッズ:夏場は蚊などが多いため必須のアイテム
手洗い用の水:ペットボトルに水道水を入れて用意
タオル:濡れた手を拭くために使用
ライフジャケット:水難事故防止のため。子どもにも必須のアイテム

テナガエビ用のセット仕掛けと予備のハリ。ピンセットはエビからハリを外す際に使用した

■釣って食べて大満足!  この夏、荒川へテナガエビ釣りに出かけよう

持ち帰ったテナガエビはから揚げにして美味しくいただいた。釣り人ならではの贅沢である

 テナガエビ釣りの魅力は、釣る楽しさだけではない。家に持ち帰り、自分の手で調理して美味しく味わう。その過程もまた、大きな楽しみのひとつだ。

 今回釣ったテナガエビは自宅でひと晩しっかり泥抜きを行い、翌日にから揚げにしていただいた。作り方は以下の通り。

【作り方】
1. 生きたエビを日本酒で締める(約20分)
2. 爪楊枝で胃袋(砂袋)を取り除く
3. 水で洗い、キッチンペーパーで水気を拭き取る
4. 小麦粉をまんべんなくまぶす
5. 170〜180℃の油でカラッと揚げる
6. 皿に盛り、塩をふって完成

 揚げたエビは鮮やかなオレンジ色に変わり、香ばしい匂いが食欲をそそる。サクッとした歯ざわりと、口に広がる塩味と旨味がたまらない。エビの数が少なかったため、ビールとともにあっという間に完食してしまった。手間をかけた甲斐がある味だった。釣り人だけが味わえる、とっておきの贅沢な時間を過ごすことができた。

 釣って楽しく、食べて美味しい。そんなテナガエビ釣りは、夏のアウトドアにぴったり。都心からわずか30分で行けて、短時間で十分に楽しめる。興味を持った方は、熱中症対策を万全にして、ぜひ荒川へ足を運んでもらいたい。

 

●【MAP】荒川(埼玉県戸田市)