悲しいかな、よほどの山奥でない限り日本(本州)の川のマス(トラウト)たちは、その大部分を漁協の放流事業に頼っているのが実情だ。
そんななか、魚の放流をしないでも天然のイワナたちが釣れる川がある。しかも数多くの釣り人が訪れる人気の川、標高の高い山奥ではあるが、車道がすぐ横を走っている川である。それが志賀高原を流れる「雑魚川(ざこがわ)」だ。初夏の釣行の模様を美しい渓の景色と共にお伝えしたい。
■源流は志賀高原! 雑魚川
雑魚川(ざこがわ)は、日本を代表するスキーリゾートとして有名な志賀高原の中心部一帯を源流とし、秘境・秋山郷へと下り中津川と合流、そして信濃川へと注ぎ込む。
流れに沿うように走る奥志賀林道(舗装路)は、例年5月下旬に開通する。ゲートが開いた後は、目ぼしいポイントの周辺で駐車して手軽に川にアクセスできるのがありがたい。ただしクマの生息地なので、十分に用心して対策して釣りに臨みたい。
下流に行くほど大物が釣れる期待値は上がるのだが、秋山郷へと向かう下流へ行くと林道と川の高低差がかなりあり、入退渓が困難になる。取材日は午後だけの釣行だったので、奥志賀高原スキー場のゲートから少々下った付近で竿を出した。
■天然イワナが息づく川
今でこそ、その流域の環境や生態系を含めた種の保存の重要性は認識されてきているが、ひと昔前まではとにかく放流さえすればいい。そんな考え方が主流だった。
そんななか、雑魚川を管轄する「志賀高原漁協」は以前から放流を一切行っていない。本流に流れこむ支流群を全て禁漁(本流にも一部禁漁区間あり。支流でも満水川や外川沢は釣り可能)とし、種沢とすることで、多くの釣り人が訪れるにも関わらず渓流魚が絶えることなく残っている。天然・野生魚を増やす水産庁の試みのモデルケースの一つとしても取り上げられている、希少な川だ。
志賀高原自然保護センター:https://shizenhogo-center.shigakogen.gr.jp/fishing.php
僕自身、初めて釣りに行った学生の頃から30年あまり、年に1〜2回は竿を出しているのだが、釣れるイワナは変わっていない。若干サイズが小さくなっているような気もするが、それはタイミングの問題なのかもしれない。
■忍び寄る新たな脅威!
しかし最近、「ミスワタクチビルケイソウ(藻)」がはびこり、新たな脅威となっている。外来の藻がこのまま繁殖、拡大すれば水生昆虫や当然魚たちの生息環境にも大きな影響を及ぼすことが懸念される。
対応策として漁協が主だった入渓ポイントにアルコールスプレーや塩を用意してくれている。ブーツやウェーダー、ランディングネットなどに塗布して、他所の生物を持ち込まない・持ち出さない処置をしてほしい。随分前から海外の河川ではフェルトソールのブーツは使用禁止になっているところが多い。僕自身、ホームグラウンドの川以外では極力、フェルトソールは使用しないようにしている。当然ウェーディングギア類は毎回洗って熱湯消毒をしている。
無意識の悪意が、貴重な生態系に悪影響を及ぼす。原因は釣り人だけではないだろう。けれど、フィールドに親しんでいるからこそ、環境の変化に敏感になれるのが釣り人のはずだ。