早いもので2022年の渓流釣りのシーズンもあとわずか。自然渓流では今月いっぱいで終了とする漁協が多い。漁協によっては、すでに禁漁時期入っている河川もある。

 たとえ毎日釣りができたとしても残り10日もない。当然、仕事やその他の予定もあれば、水量などの河川のコンディションもある。気は焦る一方だが、同時に思い出に残るような一本を釣りたい欲もある。

 数でもサイズでもなく、野生の美しい魚が釣りたい。そう思いつつも、釣り友や知人がSNS等でアップする写真の魚に目が眩む。欲深い僕のような釣り人は、自慢できるような魚が釣れそうな川、ポイントに思いを巡らしてラストスパートに勤しむのである……。

■千曲川と信濃川の狭間・北信濃の深き渓へ

 春の雪解けや梅雨の増水時期、本流差しの銀ピカヤマメや雪代イワナを狙って足繁く通った長野県北部、北信濃の渓。ここ数年でいまだに満足のいく大物どころか、坊主(一匹も釣れない)の日がほとんどだ。けれど毎回色々と理由をつけては「今日は釣れる気がする」と思い込んで足を運んでしまう。

 千曲川へと注ぐ川は山里の深い谷間を流れる。途中、下流部と上流部を区切る堰堤は魚の遡上を許さない。今回も千曲川(信濃川)から遡上する大物を狙い、合流点から堰堤までに狙いをつけて懲りずに出かけてみた。

■秋鱒の遡上に期待! 川見すること数時間

 先週の千曲川は予想以上の増水で釣りどころではなかった。その水が落ち着いた頃がチャンスとタイミングを見計らっていたのだ。いざ来てみると予想に反して随分と水量が少ない。上部でずいぶんと取水されているようだ。

大型のストーンフライ(カワゲラ・水生昆虫の一種)も羽化したようだ。フライ選びのヒントになった

 遡行は楽でポイントも絞りやすいが、気温は30℃近く、夏が戻ってきたかのように蒸し暑い。水温は19.6℃と冷水性のトラウトにはかなり酷なコンディションだ。せっかく朝イチから来たのだが、竿を出しあぐねて有望そうなポイントを探して川を見てまわる。渇水気味の流れからは魚の気配をまるで感じない。

 念のため堰堤より上流を覗いてみると、案の定、程よく水量を増した流れが滔々と涼しげなリズムを刻んでいる。これならさらに奥の源流部へ行けば、居着きの美しい天然イワナが迎えてくれるのは間違いなさそうだ。けれど今回の狙いは本流から遡上してくる大物……。

■橋の上は釣り人の憩いの場

 橋の上から流れに揺れる良型のイワナ(来るたびに同じ場所にいる)を見つめながら、釣りをするべきか逡巡していると、道路を僕の方へ歩いてくる釣り人と目が合った。

橋の上から流れに揺れるイワナを観察する。見ていても飽きない

 齢80歳だと言うフライマンは、幼少期から少年時代をこの川岸にあった家で過ごしたと言う。今現在は偶然にも割と近いところに住んでいる事がわかり、話も弾んだ。昔の川の様子やダムの事、大水で当時の木製の橋が流された話、さらには近所の娘さんが美人で好きだったなどなど。

 なぜかここ一年ほど、フィールドで偶然出会う釣り人と四方山話をすることが多く、フィーリングが合うと釣りをするより楽しい時間だと思うことがよくある。すっかり長話となり、満足してしまったので釣りをせずに帰ろうかと思ったのだが、会話の中で出たポイントが気になり、それをヒントに川辺へ降り立った。