昨年秋から犀川の本流釣りの人気に拍車がかかり、どのポイントも釣り人が絶えることがないほどだった。しかし年末からの冷え込みと、例年以上に降りしきる雪のせいか、その数も減ってきたようだ。
あまりにも厳しい寒さ。競争相手は自分自身。日がな一日釣りを続けて一本釣れるかどうか……。それでも釣り人は竿を振る……。
■厳しい寒さと美しい雪景色・澄んだ流れ
ある日の夜明けの気温は氷点下12℃、水温は3.8℃。ルアーやフライフィッシングの場合、水から引き上げたラインに付いた水が凍ってガイドを凍らせる。やがて低い真冬の太陽が徐々に谷間に差し込んでくる。
すると川面から立ち上る水蒸気が輝きだす。幻想的な光景が目の前で展開される。青く沈んでいたモノトーンの世界に色彩が戻る。そんな変化を観察していられるのは、凍える寒さを耐え忍ぶ釣り人の特権なのかもしれない。
この時期は減水しており、透明度も高い。橋の上からは河床まで見通すことができる。じっくりと観察していると、慣れた釣り人なら魚の姿を見つけることができるだろう。
過酷な寒さのなかでも、うっすらと日が差すと極小の虫たちが水面に飛び交っている。わずかな光の強弱、風が川面になでつけるさざ波……。機微な変化を感じ取りながらの静かな釣りは乙なものだ。
■魚がかかる・その一瞬のために
気温より遥かに温かいとはいえ、水温は4℃に満たない。強い流れに立ち込んでいると、厚手のウェーダーを通して水の冷たさが突き刺すように沁みてくる。水圧で血管は収縮して脚の感覚も鈍くなっていく。寒さに耐えているとやがて無の境地へ。釣りを続けてもついに魚の姿を見ることはない……。そんな日もある。
それほどまでして耐え続けられるのは、魚がかかったときの一瞬の喜びのためなのかもしれない。この時期、魚がかかるのは一日釣りをしてもせいぜい数回、一回しかアタリがないときもある。その瞬間、貴重な一本を釣るために勝負をかける気持ちだけが、集中力を保たせてくれる。