秋になると本州の多くの一般河川の釣りが禁漁時期となる。それと入れ替わるように、ニジマスを放流して釣りを楽しめる「冬季釣り場」がここ数年かなり増えてきた。

 栃木県北部、塩原温泉郷を流れる「箒(ほうき)川」は、以前から時期ごとに釣り可能な区間をズラして調整している。そのためほぼ一年中釣りが可能で、管轄する塩原漁協の意気込みを感じる釣り場となっており、人気を集めている。

 秋は色鮮やかな紅葉の渓谷美を堪能しつつ、温泉もセットで楽しめるのが寒くなるこの時期の楽しみだ。取材時はひと足遅く、直前の嵐で見頃だった紅葉が一気に舞い落ちてしまっていたが、落ち葉が流れる水面は風情があった。果たして、紅色美しいニジマスを釣ることができるだろうか。

■歴史ある塩原温泉と箒川の渓谷美

「紅の吊り橋」から眺める箒川。温泉情緒が漂う夕暮れの古町

 箒川に沿った塩原温泉郷は、西暦806年から続く1200年以上の歴史を誇る温泉地。「塩原十一湯」と呼ばれる湯本からなる温泉郷は、源泉の数も150ヶ所以上と豊富で、様々な泉質を楽しむことができる。

川沿いの遊歩道は落ち葉の散歩道

 湯と美しい渓谷に魅せられて、多くの文人が訪れたという。尾崎紅葉はこの土地で取材旅行をし、代表作である未完の大作『金色夜叉』シリーズの一部を執筆した。「塩原渓谷歩道」が設けられており「道有れば水有り、水有れば必ず橋有り」の通り、橋、特に吊り橋の数が多く、流れの上から渓谷美を楽しむことができる。滝も随所に見られ、潤いを感じながらしっとりとしたハイキングするにはもってこいの場所だ。

 川べりから眺める温泉地は風情があり旅情をかきたてる。ことに秋、紅葉の季節は川岸の樹々の紅葉が水面に彩りを映し、多くの観光客やハイカーを魅了する。散ったばかりの落ち葉は艶やかで、絨毯のように川岸を覆いっているのも見応えがある。

雨模様だが、しっとりとした雰囲気に紅葉が艶やかな「紅(くれない)の吊り橋」

 取材時も場所によってはまだ色濃く残っており、「紅(くれない)の吊橋」が架かる古町の河原は特に美しかった。

■箒川・キャッチ&リリース区間

 箒川の秋のニジマス釣りは、ルアー、テンカラフライフィッシングで楽しめる。下流の「稚児ヶ淵」から上流の「福渡県営駐車場」までが釣り場となっており、キャッチ&リリース(釣った魚は必ず再放流)専用の釣り場となっている。ルアーのみ釣り可能なエリアも存在する。詳しくは漁協のHPを参照のこと。

塩原漁業協同組合HP:https://jf-siobara.jp

 ルアーでもこの場所で何度か釣りをしたことがあるが、今回僕が選んだのはフライフィッシングだ。放流された魚とはいえ、釣るためにまずは観察が大事なのは言うまでもない。1泊2日で塩原温泉へ滞在したが、到着が午後だったこともあり初日は観光と温泉に割り当てつつ、翌日に備えて川見をすることにした。

滑らかな水面に紅葉した葉が流れていく

 流れゆく落ち葉の動きは水中の複雑な水の動きを教えてくれ、見ていて飽きない。その陰に魚影を探してしまうのは釣り人の性。サイトフィッシングが楽しめるのも箒川のキャッチ&リリースエリアの特徴のひとつだろう。透明度はもちろん、水量と川床の色味のせいか見通しのいい流れが多く、魚影を容易に見つけることができる。70cmクラスの巨大なニジマスもいるようだが、60cmに近いサイズまでは見つけることができた。

目を凝らすとだんだん見えてくる水中の魚たち

 大きいだけではない。均整のとれたプロポーションも特筆すべきだろう。きめ細かな肌や美しく張りのあるヒレ。まるで温泉の効能が魚体にも影響するようだ。惚れ惚れしてしまうが、正直目に毒だ。俄然翌日に向けてのモチベーションが上がってしまって、その結果夜寝付けず……。