あれほど永遠に続くかと思われた夏の暑さが少しやわらぎ出した長野県北部。いよいよ渓流釣りシーズンも残りわずかです。しかし、県内の多くの地域では、夏の始めからまとまった雨がほぼ降っていません。雨は降り過ぎても降らなくても困るもの。それは渓流においても同様です。記録的な梅雨の短さ、猛暑、少雨……。すっかり水量が減ってしまった流れを潤すわずかな降雨を切望する日々です。しかし、いよいよ禁漁時期が迫ってきており、心穏やかに待っている訳にいかないのが釣り人の性でしょう。難しいコンディションなのを覚悟のうえ、千曲川の上流と最下流部の支流へと“悪あがき”しに行ってきました。
■シーズン終盤! 渇水の千曲川源流へ
信濃川水系千曲川は長野県東信地方の奥の奥、埼玉県や山梨県との境となる甲武信ヶ岳を水源とし、数多の流れを集めながら北信地方を抜けて新潟県へと流れていきます。その上流部は高原レタスで有名な川上村。県内においても寒冷な気候でも有名です。夏の猛暑の影響が少しでもましなのではと一縷の望みで車を走らせました。
源流へと続く登山道を歩きながら流れを覗くと想像以上の渇水です。少しでも深さがある区間に狙いを定め、フライを流します。すると魚影は濃く、(フッキングには至りませんが)なかなかの良型も飛び出してきてくれました。おそらく周囲の魚が集まっていたのでしょう。この時点では釣果にかなり期待していました。
急に魚信が途絶えました。辺りを見渡すと、まだ新しい足跡がそこかしこに付いていました。一度林道に戻って移動すると樹間から釣り人の影が見えます。さすがはシーズン終盤戦です。結局どこに入っても先行者の後のようで、ごく小さい魚がたまにフライを見に来る程度です。渇水状況も深刻で、流れはすっかり静まり返っています。雲の切れ間から差し込む光が渓を美しく演出していて、「釣れずともこの景色を眺めているだけで幸せ」そう(強がって)思い渓を後にしました。
■雨を待ちきれず、今度は千曲川下流の支流へ
今度は一気に千曲川の下流へ。千曲川が信濃川に名前を変える境界となる県北の栄村は新潟県との県境でもあります。本流は渇水しているうえに泥で濁っています。渇水なのは重々承知、昨年も同時期に大イワナを釣ることができた支流へ狙いを定めました。
しかし、相変わらず雨は降っておらず、再び夏に戻ったかのような高温に晒された浅い流れが待っていました。ちょうど夜が空けた頃、河原に降り立ちそっとラインを伸ばします。いきなり2投目でかかった魚はなかなかの引きを見せて抗います。渇水だから水量も少なくてやり取りが楽かと思いきや、泳ぎ回る水量がないためか、すぐに岩の隙間に潜り込んでいきます。なんとかプレッシャーをかけますが、極細のティペット(ハリス)ゆえに無理はできません。そうこうしているうちに岩に擦れて痛恨のラインブレイク……。
さらに上流、高低差のある流れが作る落ち込みが連続する中でも鈍くフライを引き込むアタリ! しかし、これまた岩魚という名の通り、あっという間に岩の隙間に入られてティペットが岩に噛んでしまいました。なりふり構わず肩まで水に浸かりながら岩の隙間に手を突っ込みました。ティペットを辿り掴んだ魚体の太さは想像以上でびっくりします。ゆっくりと引き抜こうとしたら、ヌルッと滑って大きなイワナは流れに消えていきました。
渇水の中、立て続けに尺を超えるようなイワナが出てきてくれた僥倖、そしてそれを手にできなかった自分の不甲斐なさに天を仰ぎました。悔しさのあまりロッドを折ってしまいそうなくらい。重たい脚をひきづるように車へと戻りました。