渓流釣り、国内のトラウトフィッシングというと、メインステージは東日本から北日本にかけての印象が強い。そんななか、関西にも近年注目を浴びているエリアがある。それが兵庫県の真ん中を流れる市川の「神河C&Rエリア」だ。しかも運営は漁業協同組合(漁協)ではない。釣り人有志によるNPO法人「兵庫トラウトファンデーション」が行なっている。今までの国内の渓流釣りの概念を覆す新しい試みだが、すでに10年以上の実績を積んでいる。
現在は長野県に在住する筆者だが、少年時代はこの市川からそれほど遠くない場所で過ごした。その思い出もあり、かねてよりこのフィールドに非常に興味があった。今回ようやく訪れることができたので、実釣を通じて感じたことをレポートしたい。
■釣り人による・持続可能な釣り場作り「兵庫トラウトファンデーション」とは
兵庫県南部を流れる「市川」は、県中央の山間地を源流として南へ流れ、姫路市で播磨灘(瀬戸内海)に注ぐ。延長約73kmの2級河川だ。過去には上流の「生野銀山」から長年に渡って重金属が流出し、魚の棲めない川となっていた時代もある。氾濫の多い川でもあったようだ。そんなこともあり、通常だと存在する漁協の管理下に置かれることがなかったという。
その市川に地元や京阪神を中心とした有志が集まり、2011年の秋に「兵庫トラウトファンデーション(HTF)」というNPO法人が立ち上げられた。以後、賛同する釣り人の数は増え、現在は135名(正賛助会員・サポーター合わせて)だ。活動理念は以下のようになっている。
1 川と魚を見守るふるさと活性化事業
2 青少年自然交流事業
3 河川環境保全のための清掃事業
『自然保全再生活動および子供の健全育成を図る活動に関する事業を行い、フィッシングの振興および神河地域の発展、活性化に寄与することを目的とする』とあるように、釣り人と地域の架け橋となることも目指している。
兵庫トラウトファンデーション:https://www.npohtf.com
■“リバーキーパー”としての釣り人のあり方「釣り場の環境保全」
現在、市川の中流域にあたる約7kmほどが神河C&Rエリアとなっている。国道や県道、JR播但線に沿うように流れ、アクセスもいい。見た目にも美しく澄んだ水が流れ、川床まで見通せる透明度でサイトフィッシングが可能なほどだ。いたるところに小魚たちが群れている様子が観察できた。ただどれほど美しい流れであっても我々の生活圏に密接な中流から下流域、いわゆる里川はゴミが目立つことが多い。しかしながら今回釣り歩いた神河C&Rエリアでは、ほとんど気になることがなかった。
レギュレーションにゴミの持ち帰りが明記されているが、釣り人一人ひとりが“リバーキーパー”としての自覚を持ち、草刈りや清掃活動も行なっているという。魚の放流会に併せて清掃イベントを行なっており、駐車スペースも整えられているのもありがたい。
近隣の住民からの理解も得られているようだ。おかげで朝散歩をする方々からも気さくに声をかけられたりと、気持ちよく釣りをすることができた。
その他、HTFの活動は多岐に亘る。“タグ付け放流”を行い、トラウトの移動による生息域調査を実施しデータを採取、川のキャパシティに見合った適正な放流についても調査し続けている。地元の高校教諭を招いての水辺の生き物調査も行われていたりする。
精力的な活動を続けるためには、有志のボランティアだけは成り立たない。サポーター会員を募り(詳細はHTFのウェブサイトを参照)活動の資金に充てている。筆者は今回サポート会員として登録させてもらったが、半期で4,000円だった。これが高いと思うか安いと感じるかは釣り人次第だが、新たなフィールドの可能性と活動形態への期待も込めて、ぜひ応援したいと思った。