「解禁」という言葉を聞いたのは昨日のようなのだが、早いものであとわずかで渓流シーズンも終わりを迎える。9月いっぱいで、多くの内水面、渓流魚を狙った釣りは「禁漁」の時期となるからだ(例外の河川や区間・漁協もある)。
「雰囲気のいい川辺でロッドを振っているだけで楽しい」「川面を飛び交う虫たちとトラウトのライズを見ているだけでも幸せ」などと、うそぶいていられるのも盛夏まで。秋の気配が漂い出すと気持ちは焦るばかりだ。
■銀山湖一帯は太公望のメッカ!
新潟県と福島県の県境の山中の人造湖「奥只見湖(銀山湖)」。標高約750m、環境的にも冷水性のトラウト(マス)類の生息に適している。かの開高健の著書で記されたことでも有名で「河は眠らない」の文学碑も建っている。広い湖で大きく育ったトラウトを狙う太公望たち垂涎のエリアだ。
銀山湖のトラウトと歴史や山里の暮らし、自然環境の変化については、再編集され昨年の暮れに発刊された名著『イワナの棲む山里(世界文化社)』に詳しい。美しく惹き込まれるような写真と共に紹介されており、非常に興味深い一冊なのでお勧めだ。
春先の解禁とともに湖周辺には多くの釣り人が訪れるが、秋、禁漁間近になると遡上する大物狙いで、只見川本流や各支流は大いに賑わいを見せる。
■賑わう釣り場に躊躇する
釣りをするには“観察”することがまず重要だ。釣行の初日は銀山湖周辺に注ぎ込む有力な支流をいくつかチェックし、只見川、さらに峠を越えて檜枝岐村の伊南川や館岩川など、ひたすら“川見”に終始した。どこにもつけ入る隙がなさそうなくらい盛況だ。逆に言うと釣り人がいないところは、釣果も期待が薄いのだろう。加えて水量も少なく、ハイプレッシャー・ローウォーターの見本のような厳しい状況だった。
エサ釣り、ルアー、フライフィッシング、道具を問わず、玄人感ある釣り人(被害妄想なのかもしれないが)ばかりが目に付き、つい気後れしてしまい竿を出すのも躊躇してしまう。
時間ばかりが過ぎ夕方になってしまった。某沢の入渓点で写真を撮っていると、上流から釣り人が戻ってきた。上流の様子を伺うと「先行者が多くてダメだね。40cmと36cmは出たけど……」って、十分ではないか!
■竿抜けを狙って
2日目、前日の大物の話が気になり、その沢へ入ってみることにした。
それなりの距離を歩いてから入渓したのだが、釣りを開始して2時間近くはアタリすら一切なかった。ときおり、小さなイワナが走るのを何度か見かけはしたのだが……。河原には鮮明な足跡が目立つ。連日釣り人が相当入っていることがわかる。
ようやく魚が飛び出したのは、普段なら狙わないような“重箱の隅”的なポイント。25cmほどの野生味あるイワナだった。背中の白斑が整っていて印象的だ。ひとまずの良型に胸を撫で下ろす。そこからは“竿抜け”しているような箇所をさらに重点的に攻めるとポツリポツリと同じようなサイズが釣れ出した。どのイワナもサイズの割に引きが強く魚体も太い。いつしか足跡も見当たらなくなっている。