10月に入り、(本州の)ほとんどの渓流では禁漁となりました。しっかりと釣り納めをしたつもりでしたが、「できないと思うと余計にしたくなる」。湧き上がる釣り欲を抑えるのは難しいです。もちろん海へ行けば釣りをすることができますが、自然渓流での釣りが好きな筆者にとってそれでは満たされません。

 そこで、10月に入ってもまだ渓流釣りが楽しめる川がある静岡県へと赴きました。

■富士の裾野で景色を楽しみながらフィッシング

富士山とススキたなびく田園風景を眺めながら。ポイントを探しながらの移動も楽しいひととき

 今回選んだのは「芝川観光非出資漁業協同組合」が管轄するエリアで、10月15日まで釣りをすることが可能です(キャッチ&リリース区間の一部は特別区。別料金でニジマスに限り一年中釣り可能)。芝川は富士の裾野に端を発し、富士宮市の郊外で富士川へと注ぐ約22kmの川で、途中には「音止の滝」「白糸の滝」といった観光名所もある風光明媚な流れです。

 「陣馬の滝」がある五斗目木川や上流部がアマゴの原種保存のキャッチ&リリース区間となっている稲子(いなこ)川など、里川の雰囲気と山地渓流の雰囲気が織り混ざり、変化に富んだ表情を見せてくれる魅力的なエリアです。

 例年この時期に何度か訪れているのですが、長野県在住の筆者にとってはやはりアウェイです。駐車可能な場所を把握しきっていないので、主に自転車(eバイク)でポイント間を移動しました。秋の心地よい気候はサイクリングにも最適です。漂うキンモクセイの香りを吸い込みながら、のどかな富士の裾野を自由に気持ちよく巡ることができました。

■渇水傾向&激シブだけど、この時期に釣りができる幸せ!

均整のとれたプロポーションのニジマス。掛けた瞬間は一瞬アマゴかと思いました

 まとまった雨が降った数日後を狙って行ったのですが、どのポイントも渇水気味(場所によっては取水の関係で水量が多いところも)で苦戦を強いられます。加えて、夏を越した魚たちは警戒心も強くなっており、宙に舞うフライラインの影だけで魚が走っていく場面も数知れず。一筋縄ではいかない難しさもありました。

色気ある秋の渓。雰囲気はあったのですが、反応は得られず……

 紅葉にはまだ早いですが、優しく川面を照らす秋の光や渓の匂いに季節を感じます。ロッドを振る手を休めると、せせらぎと虫の音のハーモニーが川辺に響いています。コカゲロウたち、小さな水生昆虫たちが儚げに舞っている様子を見ているだけでも至福のひとときです。

 ただただ丁寧に慎重に渓を釣り上がりました。型こそ小さいものの、美しく透明感のあるアマゴの姿に見惚れます。写真に撮った瞬間、するりと身を翻して流れに帰っていきました。いつもなら忘れてしまっている一匹のありがたさが心に沁みました。