■山岳渓流はポイントの宝庫、小気味よく割れた水面から“ガングロ”登場!

力強い引きで興奮させられた、たくましいイワナ。黒い顔とは対照的に華美な魚体。どこか艶かしい雰囲気を漂わせていました

 岩に分断された複雑で清冽な流れ。高低差が大きい山岳渓流はポイントの宝庫です。反転流はもちろんですが、落ち口の肩にも2匹並んで定位しているイワナがいました。魚たちの少し上流へ、水面を刺激しないようにそっとフライを落としました。魚たち頭上を通り過ぎたフライを、1匹が慌てて振り返ってパクリ! 体長24cmほど、体側に散りばめられた橙点が麗しい、プロポーションの整った黒いイワナでした。

 入れ食いとはいきませんが、飽きない程度に姿を見せてくれるイワナたちに一喜一憂しながら、釣り上がっていきます。

 退渓地点まで残りわずかになってきました。上流の落ち込みから続く2筋の流れ。2度3度とフライを流しながら、少しずつラインを伸ばしていきます。「あと一投だけ」と同行者に断ってロングキャスト。着水を確認すると同時に水面からフライが消えました。力強い引き込みに大物を確信します。強めの4番ロッドが頼もしく思える抵抗をいなしつつ、ラインを手繰りながら手元に寄せてきました。ようやく見えた黒く厳つい魚の顔に胸が躍ります! 掬い損なって落ち込みから下段に落としそうになりつつもどうにかネットの中に収めることができました。

 黒々とした顔は精悍ですが、身体は飴色に艶かしく潤み、そして黒ずんだ尾鰭は大きく発達しています。まるで1990〜2000年代に一世を風靡した“ガングロギャル”のようでした。

 生息環境に合わせた色合い。それとも加齢によるものでしょうか。恨めしそうにこちらを睨む眼には、僕は一体どのように映っているのでしょうか。そっと流れに帰しました。振り返ると、釣果を讃えてくれる同行者も恨めしそうな眼でした。