日中は暑さにうんざりする日でも、朝夕は過ごしやすくなってきました。近づく台風10号の動向にあまり遠出をする気にもなれず、自宅のある長野県北部、北信地方の小渓流へイワナを狙ってフライフィッシングに出かけてきました。※釣行は台風10号が本土へ上陸する以前に行なっております。

 気づけば渓流釣りシーズンも後半戦です。アクセスが良い里に近い渓は、釣り人が多いことや水温が高いことからシビアな釣りとなりがちです。果たして、元気なイワナの顔をみることができるでしょうか。

■秋の気配漂う北信濃

道端の草むらから、まだ若々しい薄の穂が伸び出していました

 北信州や北信濃とも呼ばれる長野県北部は、なだらかな山陵と谷間の田園が織りなす景色が広がっています。季節は移ろい、盛夏から晩夏へ。頬を撫でる風に秋の気配も感じるようになってきました。

艶やかな葛の花。その濃厚な芳香は、どこか薬品のような感じもします

 穂を出し始めたばかりの薄(すすき)が、すくっと天を刺すように立っています。鼻の奥にしばらく残るような甘く濃厚な匂いに目を向けると、斜面を覆うように茂る葛(くず)から雅やかな雰囲気の赤紫の花が点々と顔を覗かせていました。

 虫の音が涼しげに響くなか、入渓点を探りつつ早朝の森を散策しました。

■むっとするほど蒸した空気に包まれる、夏の“ボサ川”

ぎっしりと葉を付けた枝が覆い被さるような小渓流。上流へ行くほど“ボサ”が濃くなります

 涼しかったのは朝方だけで、川辺に降りた頃にはすっかり暑くなり、気温は30℃を超えていました。体にまとわりつくような蒸した空気は、沢の冷気とぶつかってうっすらと霧がかかっています。吐く息も白く、メガネが曇ります。

 細い流れの両側から伸びた木々の枝が頭上を覆い、ラインを伸ばすどころか、ロッドを立てることもままならないような緑のトンネルを流れる小渓流です。“ボサ川”や“藪沢”などと表現されるような釣りづらい場所だけに釣り人の入渓が少なく、この時期でも魚が残っているはずと淡い期待を抱いていました。

 このところ連日のように夕方から夜にかけて、ゲリラ雷雨に見舞われています。そのおかげで水量も十分で、水温も14.7℃と標高の割に低く(冷水性のトラウトたちにとって)快適です。一見すると一跨ぎできそうな箇所もある小渓流ですが、ときおり股下まで濡れるほどの深みもあり、ひんやりとした感触に癒されます。