いよいよ夏本番、厳しい暑さが続いていますね。長野県南部、伊那谷の西側に聳える中央アルプスの山並み。花崗岩から成る白い渓に流れる、透き通るような水。そこに棲むイワナたちは、水に溶け込むような色白の魚体だそう。フライロッドを携えて、深い山懐に刻まれた道をたどり、渓の奥へと向かいました。

■白く輝く美しい渓、しかし魚影は……

白っぽい岩がゴロゴロと転がる中、飛沫を上げながら滔々と水が流れていきます。大物が潜んでいそうな流れでしたが……

 車を停め、森の中をしばらく下って流れへと向かいました。標高は約1,000mですが、気温はすでに30℃近くまで上がっています。影から出るのに躊躇するほどの強い日差し。水温は18.5℃と予想以上に高く、釣りではなく、水浴びしたいくらいでした。

 大きな白っぽい岩がゴロゴロと転がる中、飛沫を上げながら滔々と水が流れていきます。大物が潜んでいそうなポイントが続く渓相に胸を踊らせながらラインを伸ばしました。しかし、一向に魚の反応がありません。

 そのまま100mほどロッドを振り続け、巨大な堰堤に行く手を阻まれました。環境が適していないのか、それとも(入渓しやすい場所だけに)釣り人のプレッシャーが高すぎるのか……。一度ロッドを仕舞って、さらに山奥へと向かう事にしました。

■真夏、渓のプールで一喜一憂

白い川床にゆらめくイワナの姿。光の加減や大きく動いたタイミング以外は、その姿を捉えるのは難しいです

 歩くこと1時間半ほど。一段高い山道から見下ろす渓は相変わらず白く、ときおり雲の合間から光が差し込むと、サングラス越しでも眩しさを感じます。

 渓流魚たちは環境に馴染むような体色になることが多いです。ですが、白くなるのにも限界があるのでしょう。目を凝らして見ていると、明るい岩の上に魚影が浮かび上がっています。

 魚の密度も濃いようで、イワナ同士が縄張りを巡ってでしょうか? 追いかけっこしている様子も観察できました。森の木々の間を抜けて河原に降り立ちました。

白い渓らしい白っぽいイワナ。しかしまだ序の口。この後には目を疑うほどの美白イワナたちが顔を見せてくれました

 開始早々、泡の下から浮上してきたイワナがフライを咥えてくれました。さらに浅い“溜まり”の岩陰から尺を超える見事な魚が出てきましたが、僕と目が合って慌ててUターンしていきました。

 やがて一際緑鮮やかなプールが登場しました。複雑な流れの中に魚たちが行き来しています。絶好のポイントですが、わずかなドラグ(流れにそぐわない、不自然な動き)も見逃しません。ようやく浮上してきたかと思うと一旦フライを見つめてプイっと引き返していきます。そんなイワナたちの反応が愛おしく、一喜一憂する幸せな時間が流れました。

白い渓だからこそ、緑のトーンも際立ちます

 ついに咥えたかと思えば、あっという間に吐き出してしまって行き場を失ったフライが宙を舞っています。まるで気難しいヤマメアマゴを相手にしているようで、初夏の里川でのライズ狙いの釣りを彷彿とさせます。