■帰り道、禁漁のプレッシャーに負けてもうひと勝負

早めに切り上げたのはいいのですが、帰路、姫川本流に沿って(上流へ)車を走らせていると、どうにも“禁漁”の二文字がチラついてしまいます。帰りがけにどこか入れないかと何箇所か支流を回ってみたのですが、どの入渓ポイントにも車や自転車が停まっています。
まとまった雨から数日、水量自体はだいぶ落ち着いてきていたのですが、主要な支流はまるで雪代のように青白く濁り、その流れを集める本流も濁りが強く釣りになりそうにありません。しかし、流程の短い小さな支流は水が澄んでおり、本流への流れ込みには逃げ込んできている、もしくは産卵に向けて遡上のタイミングを窺っている魚たちが集まっていそうな気がしました。
そんな条件を満たす、ちょうどいいポイントのすぐそばに車を停めて河原に降りると、親子連れが水際で遊んでいます。さすがは連休、予想していなかった先行者です。水温が低いことは予想していたので、念のために車に積んでおいたウェダーを履くか逡巡しているうちに、やはり寒かったのでしょう。すぐに場所が空きました。本当は少し場所を休ませたいのですが、すっかり早くなってきた日没も迫っています。
■シーズン終了前のご褒美! 帰路の本流イワナ
流れに馴染ませるようにストリーマーを流すと、20cmに満たないような小さめの魚はすぐに釣れました。ニジマスです。普段ならもう終いにするのですが、もうすぐ“禁漁”なのでつい粘ってしまいます。
少し遠目にキャスティングし、川幅の中ほどにある沈み石が作る三角の緩衝帯をゆっくりと通過させました。岸際の緩みでスイングが終わったフライを押さえ込むような鈍いアタリ! まるで心臓の鼓動のような脈動がラインから伝わってきます。20cm後半くらいかと思ったのも束の間、引き寄せようとすると凄まじい重量感で抗い出しました。大物を確信し、とっさにリールファイトに切り替えます。
流れの厚みもあって、4番のグラスロッドがバットからしなり、3Xのティペットがかろうじて耐えています。流心に入られるとなす術がないので、プレッシャーをかけながらどうにかコントロールしていますが、魚が走る度にじわじわとラインが出されていきます。渓流タックルのまま挑みましたが、性能のいいディスクドラグがついたリールでよかった。

寄せては走られて、そんなやり取りを何度か繰り返してようやく手元に寄せてきました。ネットは渓流サイズです。頭からうまく導き、収まりきらない尾ビレ側が大きくはみ出した44cm!
色白で艶やかな光沢を放つ奔流イワナの勇姿。均整のとれたそのプロポーションに、すっかり見入ってしまいました。悪あがきのようでもありましたが、粘ったご褒美がありました。
ヒレの状態に老いが表われています。サイズも然ることながら高齢なのでしょう。果たしてこの冬を越せるでしょうか。きっともう会うことはないでしょう。肌寒くなった9月後半の夕暮れ、川面に吹く風に一抹の寂しさを感じました。