夏は渓流釣り、とくに山岳渓流での釣りの最盛期です。しかし、局所的な夕立はあるものの、まとまった雨がしばらく降っていませんでした。日に日に暑さが厳しくなっていくばかり。

 わずかに雨が降った翌日、かねてから気になっていた渓へフライロッド片手に向かいました。

■今こそチャンス!? 近いけど険悪な渓へ

急勾配の渓。連続する落ち込みは好ポイント

 8月初旬に訪れたのは長野県北部、筆者の自宅からもそう遠くない、とある渓です。

 もちろん以前、様子を見に行ったことがあるのですが、地形図で見る以上に狭く深い山岳渓流。平水だと遡行は困難を極め、釣りを楽しむというより懸命に沢登りするような場所です。しばらくまとまった雨が降らず渇水している今こそが、釣りができるチャンスでしょう。

 気温は24℃と涼しく、標高1,000mを超えたあたりで蝉しぐれも徐々に収まってきました。ひょっとしたら寒すぎるかもと心配していたのですが、歩き出すとすぐに蒸してきます。

 狭い谷間を滔々と流れる水、強い勾配と転がる岩に刻まれて緩急リズムよく、ポイントの宝庫です。水温は意外にも高く18℃でした。The 山岳渓流の趣に、いいイワナに出会えそうだと気持ちが昂ります。このときはそう思っていました。

■いきなり大物! 40cmオーバーの魚の正体は……

全然ネットに収まりきらなかった大物は45cm!

 入渓して最初のポイントでした。落ち込みから吐き出された膝下くらいの深さの流心の脇で揺れるフライ、するどい水飛沫とともにフライがいきなり消えました。合わせた瞬間にラインが一気に引き込まれます。比較的パワーのあるロッドがのされそうになり、大物を確信しました。

 しかし、その“引き”になんだか違和感がありました。何度か寄ってきて走られてを繰り返すうちに正体が判明しました。なんと、まさかのニジマスです。

 「そんなの聞いてないよー」

 一般的にニジマスは運動能力が高く、やり取りも激しいものになります。筋肉量とその重量でぐんぐんとラインを持っていこうとします。

 7X(0.4号)のティペット(ハリス)を繋いでいたので、安易に引き寄せることができません。山岳渓流の狭いポイントなのに、ロッドを左手に持ち替えて右手でパーミング、リールファイト態勢に入りました。

 少しずつ体力を削っていくと、ようやく水面近くまで上がってきました。隙を見て空気を吸わせて引き寄せてネットイン! といっても渓流用の30cmほどの内径、浅いラバーネットです。扇状の大きな尾ビレをはみ出させつつ、釣り上げたのは45cmの立派な魚体! まごうことなき野生のニジマスでした。

 いきなりの大物、それ以上に予想だにしなかった魚種を釣り上げてすっかり放心してしまいました。正直、もう帰ろうかとも思いましたが、この先どんな景色が待っているのか気になります。イワナがいるのか、それともニジマスだけなのでしょうか……。