■ニジマスたちが居着いた訳は?

体側のレッドバンドが鮮やかなニジマス。リリースしてもなかなか離れていきませんでした

 帰宅して、あらためてその日の釣りを振り返ってみました。ニジマスはカムチャッカ半島および北アメリカの太平洋側原産のトラウトです。つまり外来種です。いっときは漁協による放流が盛んでしたが、最近では環境への影響を考慮した分別ある放流をするようになっています。

 そもそも、こんな山中に放しても誰も得しないでしょう。例え卵で放流するとしても大変な労力がかかります。下流には堰堤や滝がいくつもあるうえに、途中で取水されて涸れ沢となっており、魚たちの遡上を阻んでいます。上流部は比較的穏やかで平坦になるので、昔そのあたりで放流されて落ちてきた子孫でしょうか。

 今までも、本州(栃木や富山)の山岳渓流で、ニジマス優勢の渓で釣りをしたことがあります。戦時に食糧としてニジマスを日本各地、山中の湖などに放していたという話もあります。当時は生態系への影響という概念はなかったのでしょう。その水系には今でもその子孫たちが生きながらえています。おりしも終戦の日が近く、往時を偲ばせます。子どもの頃に夢中で追い求めた、里のウシガエルやアメリカザリガニなどの存在もふと思い出しました。

■さらに気になるのは謎の青い魚

とっさにベストのポケットからiPhoneを出して撮影。一切加工していない“青”です

 実はもう一点、もっと気になる遭遇がありました。20cmほどの魚たちが数多く集まっていた小さな淵、その中で謎の青い魚を見たのです。

 明らかに一匹だけ“青い”のです。ゆらゆらと寄ってきて、水面下のウェットフライをついばむようにはしていたのですが、フッキングまでは持ち込めませんでした。そのうち興味を失って離れていってしまいました。

 同じようなサイズの魚たちは皆黒っぽい背中で、反転した際には赤銅色でした。とにかく、絵の具で塗ったかのような鮮やかな“青”はブルーバックどころではなく、どこか人工的な印象さえありました。これが噂に聞く突然変異の「コバルトマス」なのでしょうか。だとしたら『釣りキチ三平』にも登場した魚……。手元でじっくりと観察してみたかったです。

 家から近いにも関わらず敬遠していた渓が、まさかのニジマスだらけ。しかも青い魚の正体が気になります。釣りに行くたび、日常とは違った驚きや発見があります。これだから渓通いは止められません。