■イブニングに姿を見せた艶やかなヤマメ

先を急いだのには訳がありました。朝イチに入ったポイントの上流でヤマメを狙いたかったからです。
徐々に照度が落ちていく渓。水深は深いところでも膝上くらいです。流れ込みの芯がやがて底石でぼやけ、細かい複雑な流れとなっています。いかにも良型のヤマメが潜んでいそう。
川面を交う虫たちに「ひょっとしたらライズ(魚の水面付近での捕食行動)起きないかな」と期待を込めてじっと息を潜めていると、対岸の斜面の森からガサゴソと音がします。腰のカウンターアソルト(熊よけスプレー)を確認してから、視線を戻すと物音の正体はカモシカでした。付近にも足跡があったので予想はしていましたが、おそらく水でも飲みに来たのでしょうか。向こうも気がついたようでこちらを見つめています。
ライズはありませんがギャラリーもできたので、そっとキャスティングを始めました。3度目、ゆっくりと水面を漂うフライにゆっくりと浮上してきた魚体。日中の明るい時間と違って白っぽく見えます。静かにフライを咥えたように見えたのですかさず合わせるとすっぽ抜け。どうやら先に見切られていたようです。一瞬のことですが、その艶やかな背筋のラインが脳裏に焼きつきました。
警戒の強くなっているヤマメ相手ですし、時間的にもこれがラストチャンスでした。悔しさに天を仰ぐ僕の姿にびっくりしたカモシカが、慌てたように斜面を登って藪の中に消えていきました。
雪解けが遅かった渓ですが、初夏に向けて渓流釣りシーズンは本格化していきます。どんな物語が待っているのでしょうか。ワクワクしながら次の釣行プランを練っています。