4月中旬、筆者が住む長野県北部の桜(ソメイヨシノ)はまだ蕾が綻び出したばかりでした。当然のように山にはまだ雪が多く残っています。解禁こそしているものの、本格的な渓流釣りシーズンはまだ先になりそうでした。

 そこで春を感じに静岡県富士市と富士宮市へと向かいました。釣りと同時に富士山と桜の絶景を楽しむお花見釣行です。

■人気の絶景スポット「龍巌淵」へ

潤井川の左岸沿いの桜並木。流れを縁取るように咲き誇っていました

 潤井(うるい)川にかかる龍巌淵(りゅうがんぶち)には左岸250mに渡って桜並木があり、滝戸橋からは桜と潤井川、そして富士山を見ることができる人気の絶景スポットとなっています。

 4月中旬に差し掛かったばかりの取材日は、ちょうど満開となったソメイヨシノの花が左岸を薄紅色に染めていました。奥には中腹から白い帽子を被ったような霊峰富士。桜と富士山、清らかな里川の流れ、日本の春を凝縮したような組み合わせは、まさにこの時期ならではの絶景です。

 この絶景のなかでロッドを振りラインを伸ばしたいと思うのですが、両岸と橋にはぎっしりと観光客がいます。その半数以上は外国の方のようです。いい見せ物になるか、景色の邪魔になるか……。

■「特別区」で楽しむ春の釣り

特別区の受付となる「田中屋」さん。こちらでも富士と桜の組み合わせが!

 釣りをするために移動してきたのは芝川です。芝川は富士の裾野に端を発し、富士宮市の郊外で富士川へと注ぐ約22kmの流れで、途中には「音止の滝」や「白糸の滝」といった観光名所もある風光明媚な川です。

 「芝川観光非出資漁業協同組合」が管轄する芝川の中で、久保大橋上流〜西山堰堤までの間は特別区となっています。約1kmがキャッチ&リリース区間となっており、一年中釣りをすることができます!

最初のプール。大きなニジマスが悠々とクルージングしています

 区間内の下流部は里川の風情ですが、上流へ釣り上がると谷が狭まり渓流の感が強くなります。アマゴとニジマスが放されており、ニジマスは40cmを優に超える大物が数多く放流されているのも魅力です。

 ちょうど先行者もおらず、最初のプールから順番に釣り上がっていきます。しかしながら、かなりの渇水傾向のおかげで魚が丸見えで警戒心がずいぶんと強くなっている様子です。前回、水嵩が多いタイミングで訪れたときは、魚たちはかなりの高活性でおもしろいように釣れたのですが……。

 “L字堰堤”の先でライズを発見しました。

 そっと忍び足で射程まで近づきました。鼻先からやや離れた位置にふわりと落ちたドライフライ。それを目ざとく見つけたニジマスはふらりと近づいて疑うことなく口を開けて吸い込むように咥えました。

 猛烈な勢いで上流へと走りだしたニジマスに対応が遅れ「マズい!」 そう思った瞬間、ロッドがのされてフライが外れました。情けない声を出しながら、そのまま流れのなかに消えていく大物の姿を見送るしかありませんでした。この一喜一憂も釣りの醍醐味でしょうか。

小さいニジマスは釣れましたが、大物は今回はお預けです……

■桜が似合うアマゴを求めて支流へ

富士の裾野を流れる清流。場所によっては深山幽谷の雰囲気があります

 翌日は同じく芝川の一般渓流で釣りをしました。午後から雨が降る予報が出ており、限られた時間のなかで釣果が出せるのでしょうか……。

 本流の目ぼしい箇所を見て回り、ここぞというポイントでフライを流してみます。しかし、魅力的な大場所では反応が得られません。そこかしこに桜が咲き誇り、川岸を華やかに彩っています。春はお花見も同時に楽しめていい反面、花々に目移りしてしまって釣りに集中できないですね。

どこか桜の花びらをイメージさせるような、華やいだ渓のアマゴ

 芝川に注ぎ込む支流へと向かいました。浅い流れのなかでも水量がまとまっているポイントを見つけ、その反転流にドライフライを乗せて流心へとそっと送り込みます。微妙に流すラインを変えながら試していると、パシャっと水面が割れて美しいアマゴが飛び出してくれました。くっきりとしたパーマークに桜の花びらをイメージさせるような朱点が散りばめられています。美しい魚体にうっとり見惚れながら、そっと流れに返しました。

 桜が終わっても次々と花々が咲き、日に日に緑濃くなっていく季節です。虫たちも飛び交い、いよいよ渓流シーズンが本格化しますね。