■たくましく生きている外来種“ブラウントラウト” 真の悪者は人間

犀川本流、70cmのブラウントラウト。釣りの対象としては人気ですが、これ以上拡散させないようにする必要がありそう

 ブラウントラウトは、ヨーロッパ・中央アジア・北アフリカ原産のサケ科の魚で、降海するとシートラウトと呼ばれます。今では北米やアジア、ニュージーランドにも生息しています。国内では北海道、本州でも自然繁殖しているところが増えています。ニジマス(これまた国内で自然繁殖している)に引けを取らないほど大型化し、釣りの対象として非常に魅力的なトラウトです。

 千曲川の源流は「甲武信ヶ岳」の山頂直下ですが、その長い中流域の途中、長野市郊外で「犀川」が合流しています。その犀川や、さらに上流にあたる「梓川」ではブラウントラウトが多く繁殖しています。北アルプスの玄関口であり、永年禁漁となっている「上高地」では、20世紀の初め頃に激減していたイワナの数を補うため、ブルックトラウト(カワマス)と共にブラウントラウトも放されました。今では、その下流にあたる信濃川でもブラウントラウトが確認されています。

 千曲川本流から200mほど上流に入った場所です。以前にも同じ渓でブラウントラウトが釣れたことがありますが、それはさらに100mほど上流でした。高温、夏の少雨、発電や農業取水による渇水、そして高水温。生活圏からの排水など、日本の里川を取り巻く環境は過酷です。それに適応できるサケ科渓流魚は、在来種であるヤマメやイワナよりもブラウントラウトやニジマスなどの外来種なのかもしれません。

 筆者は“外来種”という言葉をあまり使いたくありません。外来種は、本来その場所にいなかったはずの生物を指します。そのため、在来種を脅かす“悪者”の印象が強いからです。しかし、元をただせば本来いた場所から連れて来られた被害者です。そのなかで環境に適応して命を繋いでいるのです。連れてきた犯人は、意図的にせよ無自覚にせよ人間です。

 たくましく生きている外来種ですが、環境や在来種に対して悪影響を及ぼしているのであれば、なにか対策をしなければならないかもしれません。真の悪者は人間であることは忘れずに……。

■ダム上はイワナたちの棲み家

緑に染まるような水の反射。川床の色合いとよく馴染んでいるイワナ

 午後は同じ渓のさらに上流、いくつかある支流のひとつへと移動しました。きちんとした魚道が整備されていないような垂直の堰堤、ダムは生態系を遮断する存在です。とくに高いものは一方通行。下流へ落ちることはできても、上がってくることは不可能でしょう。

 ただ同時に、水中の生態系にとって幸運なのは、下流からの侵入を遮ってくれることでもあります。おそらく建設当時にはその効果を考慮してはいなかったでしょうが、ダムより上流にブラウントラウトは存在しません。

 GW中に頻繁に釣り人が訪れた後です。“竿抜け”していそうな流しにくいところや周囲より水深があるところを探っていると反応がありますが、喰いが浅くなかなかフッキングしません。

 少し日が傾いてきました。森の陰、暗がりから飛び出してきた1匹。紛れもなくイワナでした。健康そうな山奥のイワナの姿を確認できたので、もう満足です。ロッドを仕舞いカメラに持ち替えます。一斉に羽化し飛び交うカゲロウたちの舞いの観察を楽しみました。

傾いた日が差し込む緑豊かな森の渓。カゲロウたちの乱舞が始まろうとしていました