初夏、渓を歩くのが気持ちのいい季節になりました。水温も程よくなってきており、渓流釣りのシーズンも本格化してきています。新緑に染まる山々は淡く繊細な色合いで、見ているだけで心まで華やぐよう。毎年のことながら、その景色に見慣れる間もなく緑は濃くなっていきます。
長野県北部に住む筆者には、ときおり様子を見にいく渓、ポイントがいくつかあります。釣りをしなくても、仕事の前後などに魚影やライズ、川の流れを眺めているだけでも心がほぐれるような、そんなひとときを過ごすことができます。
■まだいた! 昨年から目をつけていた良型ヤマメ
昨年、比較的家からも近く、手軽に観察できるポイントで素晴らしいヤマメたちを見つけました。さっそくフライを流してみましたが、素直にフライを咥えてくれず、すぐに警戒されて流れのなかに消えてしまいました。後日、2回ほどフライに飛び出してくれたときもあったのですが、うまくフッキングしませんでした。その後も何度か釣りをしたり観察したり、その場所を訪れるのが楽しみになっていました。秋が深まり禁漁になってからも何度か見に行っていたのですが、あるときから見かけなくなっていたのです。
解禁から2か月ほど経ったある日、仕事前、久しぶりにこのポイントの様子を見にいく機会がありました。そっと近づき木々の陰から流れを覗くと……。水中に揺らめく影が見えました! 30cmあるかないかの良型。美しいヤマメです。近く流れてくるものに積極的に興味を示し、ライズを繰り返しています。浮上しては口を開け、しきりに捕食行動を繰り返している様子はずいぶんと警戒心がなさそう。
去年確認したときはもう一匹、さらにひと回り大きい相方!? がいたのですが、そちらは確認できません。ヤマメの寿命は3年程度ですし、冬を越せなかったのでしょうか。それとも、釣られて持ち帰られてしまったのでしょうか……。
このとき、ヤマメは流れてくるものに寛容に反応している様子でした。攻略法を妄想しつつ、すっかり見とれているうちに移動しなくてはいけない時間になっていました。観察していないで早く釣り始めればよかったと後悔しつつも、麗しい姿を脳裏にしっかりと焼き付けて仕事へと向かいました。
■姿を消したヤマメ、膨らむ妄想
さて仕事が終わり、再び件のポイントを見に行ってしまいました。ドキドキしながら先ほどの場所を覗いてみると……。ヤマメの姿が見えません。単に虫たちの流下がないだけなのでしょうか。
ただ美しい魚体を眺めたかっただけ。流れに揺れる姿を見て帰ろう。そう思っていたのに、姿が見えないことがどうにも気になってしまい、気がつけば釣り支度をして河原に立っていました。すると、先ほどまではなかったはずの真新しい足跡があります。
おりしも大型連休が始まったばかり。アプローチのいい場所だけに釣り人が訪れてもおかしくありません。ひょっとして釣り上げられてしまったのでしょうか? 簡単には釣られない狡猾な良型ヤマメです。隠れてしまっているだけならいいのですが……。もし釣られたとしても優しくリリースしてくれていたらいいな。そんなことを思いながら、いくつかフライを結んで流してみますが、水面が割れることはありませんでした。