11月に入りました。ほとんどの(本州のトラウトを対象にした)“渓流での釣り”は禁漁となっています。しっかりと釣り納めをしたつもりでも、そろそろ釣り欲が抑えきれなくなっている人もいるのではないでしょうか。
新潟県三条市の下田(しただ)地区、清流大橋〜守門川合流地点は大型ニジマス放流区間となっており、キャッチアンドリリースで通年釣りをすることができます。
11月上旬、今年もっとも地球に接近した満月の夜が明ける頃、スーパームーンを眺めながら、新潟県三条市を目指しました。
■渓流、里川での釣りの醍醐味を味わえる! 「五十嵐川」のキャッチアンドリリース区間
五十嵐(いからし)川は、大河津分水路分流点より下流における信濃川水系の主要な支流で、流程約38.7kmの一級河川です。
南東の魚沼市との境界・烏帽子岳(1,350m)を水源として、上流部で笠堀川と合流後、八木ヶ鼻地点で守門川や駒出川と合流。その後蒲原平野に流れ出て、大平川や鹿熊川と合流した後、三条市中心部を東西に横断して信濃川に注いでいます。
下田の里を流れる五十嵐川は、所々護岸されたおだやかな里川の風情ですが、場所によっては深い山奥のような野趣あふれる渓相となります。色づき始めた紅葉を愛でながらの本流フライフィッシング。久しぶりにダブルハンドのロッドを思う存分振ってきました。
コハクチョウの飛来地「白鳥の郷公苑」(※ 冬季入渓禁止)がキャッチアンドリリース区間の途中にあり、今回の釣行でも飛来したハクチョウたちが悠然と飛ぶ姿を見ることができました。「コーコー」と特徴的な鳴き声は、耳に心地よく響きます。
■プロポーションの整ったニジマスは引き味も強烈!
今回はありがたいことにアテンド付きの釣りでした。このエリアに精通した新潟の釣り友が2日間案内してくれたのです。変化に富んだ里川はポイントの宝庫ですが、水位や水温などの状況を見ながら各ランへの入退渓のタイミングを組み立ててもらえて助かりました。
ライズこそ見当たらないものの、長いランの途中では幾度かアタリがあって飽きさせません。いよいよ最後のポイントの“駆け上がり”でフライをスイングさせていると、水面に水飛沫が飛びました。フライを目がけて食い上げてきたのでしょう。その直後、もう一度同じように流したフライが。ひったくるようにもっていかれました。
激しくヘッドシェイクを繰り返すニジマスですが、それほど走ることがないおかげで、じわじわと順調に寄せてきます。「思ったより小さいな」 寄せてきたニジマスの姿に一瞬油断した瞬間、一気に対岸へと走られてドラグがけたたましい音を立てています。心の声が聞こえたのかな……。失礼いたしました。
機嫌を取るように丁重にやり取りした末、無事キャッチできたのは45cmほどのニジマス。ほのかに染まる桃色と全体の銀色に透明感を感じる魚でした。写真を撮って胃の内容物をチェックさせてもらったら、そっとリリースします。
■ドキドキ、ワクワクの釣り時間! あっという間に一日が過ぎていく
翌朝、気温は7℃で水温は9.7℃でした。朝日にきらめく澄んだ流れを眺めていると、膝下くらいの深さに揺らめく魚影が見えました。60cm以上ありそうです。
ニジマスでもなければコイでもない、黒っぽい魚体には数か所の傷がついています。紛れもなく鮭の姿です! 急ぐでもなく、悠々と上流へと向かって泳いでいきました。見惚れていて写真を撮る間もありませんでしたが、遡上を目の当たりにできた幸運に胸が踊ります!
少し上流へ移動して釣りを始めます。スイングが終わり、自分側の岸の寄ってきて漂うフライにアタリがきました。2度3度とやわらかく、それでいて確かな魚信。そっとフッキングするのを待ちましたが、乗り切らず……
もう一度同じ場所へフライを流すとふたたびアタリがあり、今度はわずかにフライをもっていく手応えを感じます。高まる期待、ドキドキの……。しかしフッキングすることなく、そのまま反応がなくなりました。なかなかの大物の感触だっただけに、しばらくその余韻を思い返してニンマリしていました。
お昼を食べ終わる頃には気温が14℃、水温は11℃まで上がっていました。その陽気が眠気を誘いますが、魚たちの活性が上がっていることに期待して釣りを再開しました。コカゲロウに混ざってマダラカゲロウの一種らしき虫が、ちらほらと飛んでいます。
ふと上流に目をやると、僕の後ろからルアーを流していた友人のロッドが曲がっています。慌てて岸に上がってカメラを取り出して向かうと、すでに手早く取り込んでいたところでした。銀色ニジマスは秋光に美しく輝いていました。常にポイントを譲ってくれていた彼にも一匹釣れたのでホッとしました。
朝早くに釣りを始めたのに、あっという間に一日が終わろうとしています。見上げると、茜色の空のグラデーションに寝床に帰るハクチョウたちの姿がクサビ形を描いています。久しぶりに再会した友人との釣行、けっして魚がいっぱい釣れたわけではありませんが、のどかな里を流れる渓流での釣りは味わい深く、すでに再訪したくなっています。