■堰堤に遮られて命をつなぐ、麗しいヤマトイワナたち、儚げな美白、続いて渋い黒!

今回釣り上がったのは、いくつもの(魚道のない)巨大な堰堤で下流部と遮断された空間です。下流から上流への移動を遮断する堰堤は、魚を始め、水に関わって生活する生き物たちの生態に大いに影響を及ぼします。
堰堤の建造やその利用についての功罪についてはここでは置いておくとして、生態系が遮断されることで下流部のイワナたちが遡上できない=上流部の(放流がない、天然魚)の血が守られています。そのおかげでこの渓本来のヤマトイワナがいまも生き続けています。
1時間ほど歩いて入渓しました。さっそく瀬肩に浮いているイワナの姿を見つけます。どうやら先行者たちはもっと上流部を目指して、この辺りでは釣りをしていないのでしょう。そっと近寄ってラインを伸ばすと、その影に驚いた魚が走り去っていきました。

いくつかの岩に隔たれた流れの向こう、白い底岩の上に揺らめく白い魚体を見逃しませんでした。岩陰に身を隠しながら、フライラインを岩の上に引っ掛けてフライ先行でそっと波間に漂わせます。すっと浮上したイワナは躊躇することなくフライを咥えました。

白く激しい水飛沫を上げる落ち込みの奥の反転流へ。練習のつもりで、何度も投げては漂わせてを繰り返していると、ひったくるように黒い影が飛び出しました。重量感のある粘り強い引きに一瞬期待させられましたが、手元に寄せてみるとサイズは20cm半ばでした。ただ今度は黒っぽい、茶色とも緑ともつかない暗い色のイワナで、先ほどの白い魚体とは対照的な渋さがあります。

釣り上がるにつれて魚たちの反応が渋くなってきました。足跡が残るような砂地も少なく、強い夏の日差しに岩に残っているはずの濡れたソールの跡もすぐに消えてしまいます。確証はないのですが、おそらく先行者たちが釣りをした後でしょう。
試しに魚が入っていそうなポイントで水中の様子をカメラに収めてみると……。やはりいました! 底にはりつくように揺らめいています。岩の陰に入り込んでじっと身を潜めている魚もいるはずです。魚がいることが確認できたし、十分に渓を楽しめたので早めに退渓しました。
空梅雨から続いて雨の少ない夏になっています。自然界にも、人間の生活にも、そろそろ恵みの雨がほしいところですね。