山梨県と静岡県の県境、富士山の西エリアに位置する 長者ヶ岳(ちょうじゃがたけ・標高1,335m) は、天子山地(てんしさんち)の中央部にそびえる整った山容の山だ。山梨百名山にも選定され、四季を通じて登山者に親しまれている。
拠点となるのは富士山西麓に広がる 田貫湖(たぬきこ)。登山口は湖畔と隣接しており、すぐにスタートできる。無料駐車場が点在しているのも魅力だ。
登山コースは一本道で、道標も明確。標高差は約670mと程よい負荷。樹林帯を抜け山頂に立つと、眼前に広がるのは冠雪した富士山と田貫湖の絶景。まるで額縁に収めたかのような絵になる構図。特に冬場の澄み切った空気のもとでは、その迫力が一層際立つことだろう。標準コースタイムは往復約4時間。短時間で絶景を味わえる、冬の富士展望ハイクに最適な一座だ。
長者ヶ岳登山の起点は、田貫湖駐車場付近にある登山口となる。湖畔には北岸・南岸合わせて数か所の無料駐車場があり、シーズンを問わず利用しやすい。トイレも完備されており、登山前の準備にも便利だ。
マイカーでのアクセスは、新東名高速道路「新富士IC」から県道414号を経由して約40分。途中の県道には田貫湖を示す案内板が多く、初めてでも迷いにくい。山梨県側からは中央自動車道「河口湖IC」より国道139号を通り1時間30分ほどだ。
公共交通機関の利用はJR富士宮駅から「田貫湖キャンプ場行」バスに乗り、終点で下車して徒歩5分ほどで登山口だ。
■冠雪した富士山の大展望を求めて! 長者ヶ岳の頂を目指そう
●田貫湖駐車場から登山口、そして分岐ポイントへ
登山口には「長者ヶ岳登山道入口」と書かれた木製看板があり、そこから本格的な登りが始まる。序盤は樹林帯で、登山道は落ち葉でふかふか。傾斜は穏やかで、ウォーミングアップにちょうど良い。木々の間から朝日が差し込み、落ち葉がキラリと光る。
やがて道は徐々に九十九折りの急登に変わっていき、標高900m付近からは勾配が増してくる。木の根や岩が露出した箇所も出てくるうえ、滑りやすい場所もあるので注意して進もう。途中に小さなベンチが設けられた休憩ポイントがあり、ここで息を整える登山者の姿が多い。
このあたりから、富士山の頭(山頂部分)が少しずつ姿を現す。真っ白な雪をかぶったその姿がちらりと見えるたび、足取りが軽くなる。冬の静寂に包まれた森を一歩一歩登っていく感覚は、短時間の行程とは思えない充実感を与えてくれる。
●分岐ポイントから長者ヶ岳山頂
標高1,100m付近で傾斜がさらにきつくなり、尾根に乗ると視界が一気に開ける。ここからは木々の間から富士山の全貌が見え隠れするようになり、一層気持ちも高まる。道幅は比較的広く、ところどころに霜柱が立っているのが見え、冬の冷気が伝わってくる。
最後の急登を登り切れば、いよいよ息を呑むような大展望との出会いが待っている。標高1,335mの山頂は広く平坦で、360度の眺望を誇る。南には冠雪した富士山が堂々とそびえ、手前には田貫湖が鏡のように輝く。北には天子ヶ岳(てんしがたけ)、遠くには南アルプスの白い峰々が連なる。まるで冬だけの透明な世界が広がっているかのようだ。
山頂には手作りの可愛らしいベンチがいくつか設けられており、富士山を眺める特等席となっている。冬の長者ヶ岳は、静けさと絶景を独り占めできる贅沢さがある。