例年より早く桜前線が北上していますね。信州、長野県南部でもエドヒガンなどの桜は満開。ソメイヨシノも見頃を迎え、里は春爛漫の風情となっていました。

 断続的に雨が降ったり止んだりしていた4月初旬、晴れ間を縫うように伊那谷の渓流へフライフィッシングに出かけました。

■桜咲く伊那谷へ

駒ヶ根市郊外、天竜川の堤防に咲く桜を愛でながら川見とお花見

 長野県のほぼ真ん中にある諏訪湖から流れ出した天竜川は、東西それぞれを南アルプス中央アルプスに挟まれた伊那谷を流れます。途中、数多の支流を取り込みながら「川下り」でも有名な名勝地「天龍峡」を経て、静岡県で太平洋に注ぐ川です。

 4月に入ると同時に断続的に降った雨の影響で、本流は水量を増して濁っていました。今回はアマゴ狙い。里に近い流れで、できればライズに合わせてドライフライで釣りたい。そう目論んでいたのですが……。この時期は山々からの雪解けがありますので、降水量の割にどこも水量が大きく増えており、濁りも混ざっています。

 支流を転々としていると、見頃を迎えた桜があちらこちらで陽光に輝いています。ついカメラを向けているうちに、気がつけばすっかりお花見に転じていました。

■釣行のはずが、お花見に……

「道の駅 田切の里」のすぐそばにあるお花見スポット。藤巻川の桜がちょうど見頃でした

 最初こそ流れのそばの桜を愛でていましたが、気がつけば川とは関係のない場所へも足を運んでいました。けっきょくロッドを組むことも、ウェーダーに足を通すこともなく、日がな花を眺めて過ごしていました。

 桜だけでなくレンギョウやコブシなどの花々も里を彩っていて目を楽しませてくれます。川沿いのヤナギの木は新緑まばゆく、あっという間に緑が広がっていきそう。季節の移り変わりを目で見て楽しめることに喜びを感じます。この分だと大型のカゲロウやカワゲラ、トビケラなどの水生昆虫たちが羽化して飛び交う姿を見るのも近そうです。

まだ茶色い河原でも、岸のヤナギはいち早く新しい葉を枝先に付けていました

■山間の渓でイワナ狙い

大草址公園。高台から眺める中央アルプスの峰々は新雪にきらめいていました

 翌日は朝からすっきりと晴れていました。しかし霜注意報が発令するくらいの厳しい冷え込みで気温は5℃で身震いします。前日に降った新雪がきらめく中央アルプスの山並みを桜越しに眺めながら、意を決して川へと向かいました。

透明な水は場所によって翡翠のような彩りを見せています

 向かったのは某渓の取水されている区間です。アプローチが楽なため訪れる釣り人も多く魚影は薄いのですが、水を取られているので水量は落ち着いていて、フライフィッシングを楽しめる状態でした。ただ残念ながらここにアマゴはおらず、イワナが棲む場所。アマゴはおあずけです。

 山間の桜はまだ蕾が膨らみだした程度です。これなら今日は釣りに集中できそう。清冽な雪解け水は澄んでいて、流れに温度計を浸けると水温は2.8℃しかありません。川床の水生昆虫たちもまだまだ極小のものばかりでした。

白い川床によく馴染むイワナ。しばし見とれてしまいます

 ポイントを見極めてロッドを振り、沈めたフライがゆっくりと流れていくように操作します。瀬音が響く渓で無心で繰り返して釣り上がっていきます。釣りを始めて1時間ほど。水中を影が横切ったかと思うと、ひったくるようにラインが引かれました。白い渓を写し取ったかのようなイワナでした。

 ここで水温を測ると4.1℃まで上がっていました。はたして何を主に食べているのか気になってストマックポンプを入れると、クロカワゲラの成虫が数匹出てきました。春先に山の雪上でよく見かけるあの虫です。

 その後も30分に一度くらい魚が飛び出してきますが、サイズは測ったかのように20cm少々でした。日中は気温が一気に上昇し、山の谷間でも15℃まで上がってきました。上流へ向かって風が流れ、水温も上昇傾向です。しかし、さして魚たちの活性が上がるわけでもなく、退渓予定の場所まで来てしまいました。

夕方、水量が落ち着いてきた里川。どこかにライズがないかな

 夕方、水量が落ち着いてきた里川で、どこかにライズがないかとぶらぶら見て回りました。どこからともなく、小鳥のさえずりが聞こえてきます。どこかたどたどしい響きに訪れたばかりの春を感じます。ユスリカがぽつぽつと飛んでいますが、目ぼしいハッチはありません。諦め半分ながら、ほんのわずかな期待もあって……。こんな時間を幸せに過ごせるのもまた、フライフィッシングの魅力のひとつだと思っています。