立春を過ぎた2月末、茨城県牛久沼(うしくぬま)周辺の水郷地帯では日差しが春めいてきた。田園のあいだを流れる農業用水路、通称「ホソ」を覗き込むと、澄んだ水の底まで見通すことができた。水底の落ち葉の間では、小さな魚影がゆらりと動き、銀色の体をかすかに光らせている。岸辺では枯れヨシが風に揺れ、頭上のはるか遠くからはヒバリの声が空に響く。春間近のホソには、静かながらも確かな春の気配が漂っている。
■水量豊かなホソと変わらぬ魚影に安堵
今回、筆者が訪れたのは、牛久沼へ流れ込む谷田川(やたがわ)の脇を流れるホソ(小水路)。周囲にはイネ田が広がり、見渡すかぎり水郷らしい平坦な景色が続いている。ホソの水量は十分に保たれていた。各地で雨不足が報じられているため、水位が落ちていないか少し気になっていたのだが、昨年の同時期よりも10cmほど水位が増しているように見えた。
足元からそっと水中を覗くと、川底の石や沈んだ落ち葉の輪郭まではっきりと確認できた。その底付近には、タナゴと思しき小さな魚影が群れをなして定位している。光を受けた体がときおりきらりと輝き、澄んだ水の中でゆっくりと揺れていた。水量が保たれ、変わらず魚影も存在している。その様子を目にしたとき、この水郷が今年も健やかな環境を保っていることを実感し、胸の奥に安堵が広がった。
■水温10℃で動き出すタナゴ 連動シモリで川底を探る
水温を測るとおよそ10℃だった。この日は朝からよく晴れ、最高気温は20℃を超える予想。ニュースでは4月並みの暖かさと伝えていたが、水の中はまだ低水温の季節である。水温とのあいだにはまだはっきりとした差がある。
低水温期のタナゴは、日差しが水中に差し込み、水がわずかに温められる時間帯に活発となる。この日はそれを見越して少し遅めの午前9時過ぎから竿を出すことにした。仕掛けは親ウキの下に複数のシモリ目印を配したタナゴ釣りでは定番の連動シモリ仕掛け。魚が川底付近に定位している様子が見えたため、ウキ下(親ウキからハリまでの長さ)は水深より2cmほど短いおよそ40cmに設定した。
開始間もなく、ウキが鋭く沈み、そのまま横へと走った。上がってきたのはタモロコ。続いてクチボソ(どちらも、コイ科の小型淡水魚)が小気味よいアタリを見せる。そしてしばらくして、ようやく本命のタナゴ(タイリクバラタナゴ)が姿を現した。
オスの体側にはうっすらと婚姻色の兆しが浮かび、まだ控えめながらも春の訪れを感じさせる色合いを帯びている。クチボソやタモロコが10に対し、タナゴが1の割合ではあるが、反応はとてもよく、その釣れ方は水の中で季節が確実に動き始めていることを感じさせるものだった。
筆者が使用したタックルと道具は以下のとおりである。
【使用タックル】
ロッド:タナゴ竿 長さ50cm
仕掛け:タナゴ釣り用の連動シモリ仕掛け
エサ:タナゴ用のグルテンエサ(練りエサ)
【あると便利な道具】
小物用の針外し:魚に触れず針が外せる
カウンター(計数器):釣果を数えるためのもの
練りエサ入れ:練りエサの乾燥を防いでくれる
折りたたみ椅子:釣り場での腰掛け
水汲みバケツ:釣った魚を生きたまま一時的に入れておくもの
エアーポンプ:水汲みバケツに入れた魚に酸素を供給するポンプ
小型の観察水槽:釣った魚を横から観察できる
手洗い用の水:ペットボトルに水道水を入れて用意
タオル:濡れた手を拭くために使用
■透明な水中世界 今しか見られないホソの素顔
水中の様子が気になり、ある程度釣果を得たところで、カメラ(GoPro)を沈めてみることにした。魚たちを驚かせないようそっとカメラを水中に固定する。映し出された映像には、想像以上に豊かな世界が広がっていた。
タナゴを中心に、クチボソやタモロコが群れをなし、水路の中をゆったりと行き交っている。川底や水路の壁の側面にはモエビが無数に張り付き、ときおり素早く跳ねる姿が見えた。水路に設けられた排水パイプの穴からはザリガニが顔をのぞかせ、周囲の様子をうかがっている。水面から差し込む光はゆらぎながら底を照らし、魚の体側をひときわ銀色に輝かせた。
これから季節が進みさらに水温が上がれば、プランクトンや藻類が増え、水の透明度は次第に落ちていくだろう。今はまだ水が澄み、光がまっすぐに差し込む季節である。魚たちはときおり身を翻してエサをついばみ、水中には穏やかな時間が流れている。春間近のホソには、今だけの透明な世界が広がっている。