■「えっ!」もう少しの所で横取りされるフライ

渇水状態では数少ない水深のあるポイントで泳ぐ大イワナ

 そっとフライを浮かべるとゆっくりと様子を伺うように鼻先を近づけ……。Uターンです。今度は誘うように動かすとまた近づいてきて……。ついに!  と思ったら、岩陰から別のイワナが電光石火のスピードでフライを横取りして反転しました!  盗人猛々しいとはこのことですが、この魚をバラすとポイントが潰れて(釣れなくなって)しまいます。狙いの魚とは違うとはいえ、良型には違いありません。なるべく走らせないようにしながらプレッシャーをかけつつ、下流へ誘って無事にネットイン。27cmの野生味溢れる美イワナです。恨めしそうな目で僕を睨んでいますが、それはこちらも同じ思いです。「あの1匹さえ釣れれば帰れるのに……」

釣られて不満気なイワナの表情。尺までは、まさに一寸(ちょっと)足りません

 リリースして“溜まり”を覗くと、件のイワナはまだいるようでホッと胸を撫で下ろします。こうなれば長期戦です。小雨が降り出し優しく水面を騒つかせています。空を見上げるとすぐに止みそうです。しばらく時間をおいてフライを流し、1匹釣っては30分ほど場所を休ませて……。そんな感じで20cm後半のイワナを数匹釣った後、流石に警戒したのでしょう。大イワナはいつの間にか深く潜り、岩の“エゴ”に息を潜めてしまいました。

■白馬・小谷を東奔西走!

青緑色の美しい流れ。心洗われるような美渓で過ごすことができるのも、淺ましい釣り欲があるおかげでしょうか

 標高880m地点でも気温は28℃まで上がっていました。夏が戻ってきたのはいいのですが、雨後の藪は“草いきれ”が立ち込めて蒸し暑さはかなりのもの。往路を引き返して車に戻った時には少々ぐったりしていました。

 しかし、時間はまだ早いです。少し休憩したら元気になったので、悪あがきをしてみることにしました。移動して姫川の西側、先日と同じ支流の下流部へ入渓しました。豊かな森に吸収されたのか、前回と比べてもそれほど水量は増えていません。

このコンディションで定位していそうなポイントを探る。微妙に流し方を変えるしつこさが必要かもしれません

 ここでも次から次へと太く野生味のあるイワナたちがフライを咥えてくれます。美しい渓によく似合う魚たち。澄んだ青緑色の流れとよく馴染んだ体色に見惚れてしまいました。程よい所で退渓すると、再びしとしとと雨が木々の葉を揺らしていました。

 次こそ大物を手にできるのでしょうか……。迫る“禁漁”に心が騒ついています。