■真夏の梓川の流れから飛び出したのは……
8月中旬、国道158号線を走り梓川の上流部へと向かいました。沢渡地区はお盆休みで登山客や行楽客で大いに賑わっている様子でした。
梓川のさらに上流には、北アルプスの玄関口「上高地」があります。一帯は“永年禁漁”となっています。風光明媚な山岳景観を背景に流れる清流には、釣り人のプレッシャーがないためか、悠然と渓流魚たちが泳いでいます。けれど、実はここに在来種である(交雑種ではない)イワナがほとんどいないことをご存知でしょうか。大正後期から昭和初期にかけて行われた放流事業により、ブラウントラウトやブルックトラウト(カワマス)が繁殖していった経緯があると言われています。
果たして、今回梓川で釣れたのはブラウントラウトが圧倒的に多かったです。イワナも釣れましたが野趣に欠けた部分もあり(成魚放流?)、ブラウントラウトの方が野生味に溢れています。ついには、「いいイワナ!」と思って釣り上げた魚はブルックトラウトでした。
※この流域のブラウントラウトやブルックトラウトは、単純に外来種ではなく、近縁種であるイワナとの交配による交雑種である可能性もあります。
僕がこの流域で初めて竿を出したのは30年近く前ですが、親しくしていた現地の(釣り好き)老猟師に「ブラウントラウトだけじゃない。ブラックバス(スモールマウスバス)もいるぞ」と言われたのが印象的でした。正直に書くと、ブラウントラウトに関しては憧れもあり、それが近場で釣れると知った当時は嬉しかったです。
ただ、それから時間が経つにつれ(年齢とともに)思うことも変わりました。釣り人として“美しい渓流魚”が釣れるのは嬉しいのですが、それが在来種でないということに複雑な気持ちを覚えるようになりました。
■外来種を駆除することが最善なのか?
外来魚に限らず、昨今外来種の問題はクローズアップされています。駆除をテーマにしたテレビ番組もありますね。ちなみに日本人にとって馴染みの深いコイですら、長い歴史の中で日本にやって来た外来種が多くいることをご存知でしょうか。
僕も山の組合での仕事で、外来種の植物を除去する作業を行う時もあります。それ自体に疑問を感じてはいなかったのですが、その分野の勉強を進めるうちに考えが変わってきました。近頃はより多角的な視点・対応策が必要な気がしてきています。
当然ですが、自然・生態系は単体では存在しえません。意図しなくても大なり小なり、お互いに影響し合っているのです。そこには我々人間の営みも含まれています。また、豊かな自然=不変のものと捉えることも誤りなのかもしれません。人為的、自然発生的な理由に関わらず、変化をコントロールできると思うことこそ無理があるような気がしています。
釣り場を管轄する漁業協同組合によっては、釣り上げたブラウントラウトをリリース(再放流)することを禁じているところもあります(当然生きたままの移動も禁止)。新旧、戦時中の食糧対策や産業的観点も含めて様々な理由から連れて来られた渓流魚たち。彼らとどう付き合っていくべきなのか、頭を悩まされます。
何が正解なのかは、神でもない人間には到底推し量ることができない領域なのかもしれません。けれど、自然の中でのアクティビティを楽しむのであれば、我々を取り囲む環境や生態系に目を向け、その変化を見逃さないようにしておきたいものです。