■変態の瞬間に遭遇!

脱皮中の神秘的なシーンですが、異形の妖しさがありますね

 翌朝も同じポイントへ足を運びました。早朝はうすら寒く、観察できる虫たちもわずかです。釣り開始一投目でアタリがあったものの、それっきり……。河原に置いていた荷物(バックパック)のところに戻ると「??」。遠目からだと一瞬毛虫が這っているのかと思ったのですが、大ぶりなヤゴの背中が割れ、まさにトンボが脱皮しようとしているところでした!

抜け出した後の行動も興味深いです。この後、ようやく石の上に移動してくれました

 つい水生昆虫というとカゲロウなど、捕食されやすい小型のものをイメージしてしまいますが、トンボもその一種です。クロサナエにも見えましたが、後で写真を見るとダビドサナエ(トンボの一種)のようです。変態にどれほどの労力が必要なのか、知る由もありませんが、懸命な様子に迂闊に邪魔することもできません。荷物の上で脱皮しているので、触っていいものかわからず、見守ること1時間あまり。石の上に移動していきました。

 観察を続けたい気持ちもありましたが、後ろ髪を引かれつつも、少し上流へ移動して釣りを再開しました。堰堤の落ち込みの大場所で50cmクラスの大イワナをかけましたが、ネットに導くことはできませんでした。「テッペンカケタカ」「トッキョキョカキョク」どこかでホトトギスが呑気に囀っています。

 夕方、午前中の場所に戻ってみると、件のサナエの姿はもうありませんでした。無事に飛び立ったのでしょうか。もしくは鳥に捕食されたのかも……。いずれにせよ、自然の摂理ですね。

■釣れるまで帰れません!

まずはドライフライを流してみました。流れに揺れるメスのモンカゲロウをイミテート

 流れから顔を出した石から石へ、尾を上下させながらせわしなく飛び回るセキレイたち。水面を飛び交う虫たちは昨日より少ないものの、イブニングに向けて期待が高まります。しかし、ランをひと流ししても流れは沈黙を守っています。「釣れるまで帰りません」と言いたいところですが、日没も近くそろそろタイムアップ。最後のひと流しです。

 沈み石のヨレ、フライがターンし終わった瞬間に、グン! ぐいぐいと深みに向かって走り、ロッドを絞り込みます。

見事なメタボっぷりのヤマメ。このサイズでもパワフルな引きに翻弄されました

 人には見られたくないくらい、無様なランディングでしたが、ネットに入れてガッツポーズ! 昨日の魚よりも、一回りも二回りも小さいですが、見事な砲弾ヤマメです。夢にまで見た魚です。すごい体高もありますが、胴回りの厚みもすごい。

 この一匹で終了ですが、今後の釣りに繋げるためにも、手早くストマックポンプを挿入しました。一瞬内臓が出てきたかとびっくりさせられた正体は、小魚。稚アユ? 半ば消化された状態でも体長の1/3以上あるサイズです。もう一度吸うと、さらに同じような魚が出てきました。ナチュラルドリフトよりスイング、ときにピックアップのタイミングで反応があったのも納得です。完全にフィッシュイーター、昆虫食より魚派らしいです。もっと出てきそうでしたがやめておきました。

 カゲロウの羽やまだ消化の始まっていない状態でヒラタカゲロウのニンフ(幼虫)も入っていました。大食漢、こだわりのない感じ……。

 この一匹を釣るのに足掛け一日半、ようやく家路に着くことができます。急にお腹が空いてきました。