■ヤマメ? イワナ? 「ん、何か違う」
後ろ髪を引かれつつも、上流へ移動しました。川通しで遡行するのは困難なので、一度川から上がり移動、急な斜面をポイント目指して降りていきます。雪代イワナも捨て難いですが、先ほど顔を見た(笑)だけに戻りヤマメを釣りたいです!
流心のヨレにフライを流し込みます。実はここで一昨年、大物をかけたあげく痛恨のフックアウト。去年は見頃なローリングに振り切られました。やはり今回も魚はいました。鈍いアタリと共にロッドが絞られます。念のためリールファイトにしますが、それほど大きくはなさそう。着いていたポイントからヤマメかと思っていたのですが、引き具合からイワナだと感じました。
じわじわと距離を縮め、魚体が見え隠れするようになりました。大きくないですが、尺は超えています。流心付近に着いていただけあって、流線型の鈍く光る魚体に期待が高まります! ですが、どうにも違和感が…… やっぱりヤマメ?
いざネットイン! 「ん? 何か違う」 まさかの“ブラウントラウト”です。実は以前から、千曲川本流や他の支流の合流点付近での釣果は聞いてはいたのですが、まさか本流から数100mも入った地点で確認できたことに驚きました。さらに上流部、源流部へは魚が越えることができないダムがいくつかあるのが、せめてもの救いでしょうか。
■本来居ないはずの魚…… 川の将来を憂う
ブラウントラウトは、ヨーロッパ・中央アジア・北アフリカ原産のサケ科の魚で、降海型はシートラウト。今では北米やアジア、ニュージーランドにも生息しています。国内では北海道、本州でも自然繁殖しているところが増えています。ニジマス(これまた国内で自然繁殖している)に引けを取らないほど大型化し、釣りの対象として非常に魅力的なトラウトです。
千曲川の源流は「甲武信ヶ岳」の山頂直下ですが、その長い中流域の途中、長野市郊外で「犀川」が合流しています。その犀川や、さらに上流にあたる「梓川」ではブラウントラウトが多く繁殖しています。北アルプスの玄関口であり、永年禁漁となっている「上高地」では、20世紀の初め頃に激減していたイワナの数を補うため、ブルックトラウト(カワマス)と共にブラウントラウトも放されました。その結果、現在では純然たる天然のイワナは、わずか数パーセントしか残っていないという調査結果もあります。
ここまでの長い旅路。数多のダムから落ち、下流へ流れてきた魚たちの子孫です。すでにある程度の数は定着しているのでしょう。釣りの対象としては魅力的だけれども、狭い渓流での外来種の繁殖……。身勝手ながら、釣り人として気になる影響の一番は、ヤマメやイワナが追いやられてしまうことです。なんとも言い難い、微妙な気持ちになってしまいました。
※長野・新潟県境周辺のブラウントラウト生息の原因には別の説もあります。
金とも銀とも見える体には、黒色の斑点に混ざって朱斑も入っています。美しいフォルムはどこか気高く、気品に溢れています。魚には罪はありません。それを今さら人間の目線で駆逐(それも容易ではない)してしまうのもエゴだと思います。あらためて、我が国が抱える河川環境の問題を考えさせられる釣果となりました。