■渓の潤いが育む生命たちにすっかり夢中!

カワゲラのニンフ(幼虫)。背中の紋様がタトゥーみたいで謎めいています
マダラカゲロウの一種のニンフ(幼虫)。長い期間を水中で過ごし、地上生活はわずかです

 リリースしたイワナを見送った後、足元に魚影ならぬ、虫影を見つけました。川床に馴染むようなカワゲラの幼虫です。背中の紋様がトライバルタトゥーみたい。さらに石の下からカゲロウ(ヨシノマダラカゲロウでしょうか)の幼虫も顔を出しています。どこか甲殻類を思わせる勇ましい姿をじっくりと観察していると飽きません。

羽化したばかりのカワゲラが、まだ羽も伸びきっていないのに忙しなく歩き回っていました

 顔を上げると石の上には蟻に混ざって羽化したばかりのカワゲラ(オナシカワゲラの一種?)が、まだ羽も伸びきっていないのに忙しなく歩き回っています。ちなみにカワゲラのことを英語、フライフィッシング用語では“ストーンフライ”と呼びます。わずか畳一畳ほどのスペースですが、興味をもって目を凝らしていると次から次へと渓の小さな生命を見つけることができ、没入感がハンパないです!

 ふと、岸際で水に浸かりながら、じっとしゃがんでいる自分を客観視すると、相当具合が悪い? コンタクトレンズでも落とした? とにかく少々怪しげな様子です。街中なら通報されているかもしれません。誰もいない渓のなかでよかった……。わずか100メートルの距離を進むのに2時間ほど費やしていました。

 大型の飛翔体が飛んできてぽとりと流れに落ちました。カワゲラでした。

■狙うは尺上! ついに出たけど……

カワゲラを意識したスティミュレーターで釣れたイワナ

 退渓予定の場所まではあと400メートルはあります。並行するように林道がありますが、途中からは高低差があり、藪に覆われた斜面を上がるのは得策ではないでしょう。すでに良型も十分に釣っていましたし、ターゲットを絞って釣り上がることにしました。ここから先、狙うは尺上(約30.3cm以上)のイワナのみ!

 さっそく、先ほどのカワゲラを模した大きめのドライフライをティペット(ハリス)に結びました。浮上してきた魚が小さめの場合は素早くフライをピックアップ。見極められずに合わせてしまった場合はテンションを緩めてリリース。ドライフライ、バーブレス(カエシのないハリ)ならではの試みです。贅沢な話かもしれませんが、狙った場所にイワナがいて、フライで誘い出せれば十分に心は満たされるのです。

 2つの流れが交わり緩衝した、いかにも大物が潜んでいそうな好ポイントです。その上は張り出したヤナギの枝が覆い被さっています。流し方を変えて2度3度、なかなか反応がありませんが、先行者もいませんし、この日のコンディションを考えるときっと潜んでいるはずです。

 少し奥目にフライを落とし、途中で誘うように流れを横切らせた瞬間、水面が割れて厳つい顔が覗きました! デカい! 取りたい!

 しかし、あぁ無情……。上顎に引っかかっただけだった針先は、無情にも一瞬で外されてしまいました。その後も好調に魚は出続けて泣き尺も出ましたが、ついに尺には届きませんでした。残念ですが、ベストコンディションの渓でロッドを振る時間は何ものにも代え難い至福のひとときです。

ナイスファイトだったイワナ。残念ながら尺には届きませんでしたが、ピンと張ったヒレが印象的でした

 ようやく流れが落ち着いて水色もよくなったかと思うと、もう若干水位が下がっている印象です。暑い日が続いていますが、渓の生命たちにとってもそろそろひと雨ほしいところでしょうか(その後ふたたび梅雨らしくなりました)。