山の緑もすっかり色濃くなりました。水辺には蝶やトンボが飛び交い、セミたちが忙しなく鳴いています。渓流釣りのシーズンもいよいよ本番へ突入です。
長野県南部、伊那谷を中心とした天竜川水系へとフライフィッシングに出かけてきました。つい先日までの寒さから一転、当日は気温が30℃近くまで上がる予報が出ていました。
■伊那谷、天竜川水系へ

長野県のほぼ真ん中にある諏訪湖から流れ出した天竜川は、東西それぞれを南アルプス、中央アルプスに挟まれた伊那谷を流れます。途中、数多の支流を取り込みながら「川下り」でも有名な名勝地「天龍峡」を経て、静岡県で太平洋に注ぎます。今回は、その上流部「天竜川漁協」が管轄するエリアで釣りをしました。
早朝は天竜川本流でラインを伸ばしました。餌釣りやルアーなど、思い思いの道具を手にした釣り人たちを見かけます。しかしながら、一つのランを終えて魚信がまったくありません。水温を測ると18℃を超えています。そこで支流へと方向転換することにしました。
次に向かったのは伊那谷の東側を流れる渓です。雨上がりですが、水量は少なく本当はひと雨欲しいところ。エゾハルゼミたちの鳴き声で賑やかな小渓で小さいアマゴたちが飛び出してくれました。正直、釣果は二の次で、生き物たちを観察しながら緑を映す流れを釣り上がるのが楽しみでしたので、十分に目的を果たせました。
■昼なお暗い渓の黒イワナ

ふたたび車に乗って移動して、今度は伊那谷の西側の渓へと向かいました。里川の延長線のような渓ですが、入渓点からはしばらくゴルジュとなっています。頭上に明るく輝く緑も水面にまでは届かず、昼なお暗い渓です。絹のように優しくなでる風が妙に生暖かく、少々不気味な雰囲気すら漂っていますが、連続するプールと淵が大物を期待させてくれます。
しかし全くと言っていいほど魚の気配がありません。浮かせても沈めてもフライには一向に反応がないのです。魚がいないと判断してしまいそうなほどですが、同行のルアーマンの方はチェイスやショートバイト、そしてついにイワナを釣り上げていました。
ようやく筆者のフライを魚が咥えてくれたのは、入渓して2時間近く経った頃でしょうか。
すっかり集中力を切らせながらも、わずかばかりの期待も持ちつつ、瀬の肩に浮かせたドライフライをぼんやりと見つめていました。するといきなり水面が割れ、激しい水飛沫とともにフライが消えました。気を抜いていたので、かなりゆっくりと合わせましたが、力強い生命の脈動がグリップと一緒に握ったラインから伝わってきます。

落ち込みに逃げ込まれて苦戦しながらもどうにか引き寄せたのは、暗い渓に溶け込むような、顔の黒さが印象的なイワナ。その太さも立派なもので、やり取りしているときは尺超えしているかと思わせた重量感がありました。