■一幅の絵画のような森でロッドを振る幸せな釣り時間
「赤沼橋」より下流側は、観光やハイキングの人も少なく、釣り人も上流部ほど多くないエリアです。川は戦場ヶ原から再び森の中に入ります。大きく開けた場所に広がる森ですので、明るく爽やかな光にあふれています。そして緩急のリズムを刻みながら、それでいて全体としては穏やかな流れ。緑を映す水の表情を見ているだけで、心がゆっくりと深呼吸しているようでした。むしろ釣りは言い訳で、ただこの雰囲気を味わいたくて、この場所に足を運んでいるのかもしれません。
一見すると魚影が見えないような気がしますが、魚たちはかなりの濃さでいます。しかし、キャッチ&リリースゆえにフライの不自然な動きには厳しく、わずかな(マイクロ)ドラグですら許してくれません。その分、フライのセレクトにはある程度寛容ですので、流れに沿うようなドリフトを保てば水面に飛び出してくれました(ちなみに当日のストマックには、オドリバエが数多く入っていました)。
イワナを少し派手にしたような姿、小ぶりながらも筋肉質な魚体は野生味あふれています。体側の黄、赤点は宝石を散りばめたようで、背の虫食い模様や背鰭や尾鰭の模様に目を奪われます。国内では生息場所がかなり限定されるのですが、この湯川の清楚な流れと鮮やかな魚体のコントラストには、どこか幻想的な気持ちにさせられてしまいます。
まるで絵画の中に入りこんだような美しい森、瀬音すらほとんど聞こえない穏やかな流れ。フライロッドを振っているだけで、満ち足りた釣り時間を過ごすことができました。
赤沼橋まで戻ってくると早朝の静けさはどこへやら、遊歩道を歩く人たちで賑わっていました。クマ避けいらずかもしれません。今度はちょうど中間地点にある青木橋まで向かいましたが、予報通り、白根山の山頂部が暗い雲に覆われていき、雷鳴が轟きだしました。少し間をおいて激しい雨が降り出したので、川を後にしました。「明日も来たいな」