■まるで手品のよう! 透明な水に姿を現す白いイワナ
ようやく釣れたのは小さなイワナでした。少し上流にいた同行者に声をかけ、二人で美しく気品ある魚に見入ります。川床に溶け込むような白さにうっとりとしました。
誰もが狙いたくなるような大場所ほど、まるで手応えがありません。それでも竿抜けしていそうな場所、見逃しそうなところを重点的に探っていくと、ときおり魚が顔を見せてくれます。重箱の隅をつつくような釣りを強いられますが、それはそれで愉しいです。
岩陰に身を潜めながら、巻き返しの反転流にしつこくフライを漂わせます。すると白い川床に透けた透明な水が不自然に歪んだかと思うと、まるで手品のようにイワナが姿を現しました! しっかりとフライを咥えたのを確認して合わせましたが、フッキングせずにすっぽ抜け! ここまでで一番の大物に興奮したのですが……。
その隣の流れの弛み。流速よりわずかにゆっくりとフライを漂わせた瞬間、あたかも水から生まれたかのようにイワナが飛び出しました。白い魚体に艶やかな朱点が一層際立ちます。環境に適応した色合いになっているのでしょうが、ここまで白いイワナは他ではなかなかお目にかかれません。なるべく手早く撮影を済ませ、別れを惜しみながらも流れに返しました。
前方に人影が見えました。二人いるようです。ルアーロッドを携え、なんと釣り下ってきています。仕方がありません。ここで納竿としました。反応が鈍い原因がわかっただけでもよしとして、また来年に楽しみを取っておくことにしました。
沢を辿り山道を下っていくと、虫の音が響き出していました。そろそろ里にも秋がやってきそうです。9月末まで残すところわずか、次はどの渓へ行こうか、帰路はそればかり考えていました。