■尺クラス連発! 釣り上がるほどに好釣果
途中で沈黙の(釣れない)区間もありましたが、その後は釣り上がるにつれどんどん魚の反応もよくなり、同時にサイズも大きくなっていきます。昨日まで本流で苦戦続き(ボウズ)だったため、「山に来てよかった」という思いがグッと込み上げます。
泡の立った反転流に乗せたフライが、上段から勢いよく流れ落ちてくる水流の白泡部分に差し掛かかろうとしていました。そのタイミングで入渓してからずっと付き纏っていたブヨが目に入り、一瞬フライから目を離した次の瞬間、フライが消えていました。
いつの間にかリーダーが流心に引き込まれ、ロッドが弓なりにしなっています。魚が出る瞬間を見ていないだけに最初こそ半信半疑でしたが、明らかに大きなイワナが掛かっています。岩下に潜り込んでいくイワナの動きにグラスロッドがしなやかに追従してくれていますが、ティペット(ハリス)がいつまで保つか不安になります。
「せめて姿だけでも拝みたい」 そう思った瞬間にテンションが抜けました。フライはティペットに付いていました。うまく(バーブレス)フックを外されたようです。逃がした魚は大きいですね……。
■キャッチしたのは、透き通るような柔肌に差し色際立つ色白スレンダー
釣り上がっていくと、大きな岩が累々と流れを堰き止め、その間を水が勢いよく流れていました。その流心脇の反転流は深さもあり、水中に沈む岩の陰が薄暗く口を開けています。イワナはなかなか出てこないですが「必ず大物が入っている」と確信していました。
何度も微妙に落とす場所や流し方を変えながら「この次で出なければ、(フライを)沈めてみよう」 そう思った一投、泡の縁に漂うフライを目指して悠然と浮上してくる魚影! 躊躇せずフライを咥えて水中へと潜っていきました。ロッドが激しく曲がっている感触を味わいながら、一段下に魚が落ちていかないように耐えます。手前側が水勢のある流心のうえに足場が悪く、どうにか魚を寄せてもネットが届かず苦労しましたが、どうにか無事に迎え入れることができました。
ネットの中で元気よく身をくねらせ、何度も飛び出しそうになったのは、わずかに尺に届かない色白のイワナでした。モデルのような細身のスレンダーボディは透き通るような柔肌で、頬(エラ蓋)のラメ感が印象的で色っぽさを感じてしまいます。肌を傷つけないよう、火傷させないように、それは丁重に(もちろんフライを外す時も手で握らないように)扱って写真を撮り、早々に流れに返しました。
ここまで釣り上がるにつれ、どんどん魚の反応もよくサイズもアップしていたので、さらに釣り上がりたい気持ちはあります。空を見ると徐々に雲が厚くなっているような気がしました。翌日からはまとまった雨が降る予報になっています。出発前に見た予報では日中は、(上流の稜線付近も含め)雨が降らないことになっていました。しかし、所詮は予報に過ぎません。帰り道は往路を引き返すしかなく、当然釣り上がるほどに下までは遠くなります。若い頃にはさらに突っ込んで痛い目を散々見てきました。後ろ髪を引かれつつも、楽しい思いをしているうちに渓を離れることにしました。