荷上げは一瞬だけど、準備は2日仕事

短時間で作業する。祭りのようだ

 講習会の一週間後、奥秩父にある金峰山小屋のヘリの荷上げのお手伝いへ出かける。恥ずかしながら、じつは私はまだ一度もヘリの荷受けをしたことがない。回数を重ねたからいいってものでもないだろうけれど、さすがに経験しておかねば。以前からお世話になっている金峰山小屋の吉木さんに連絡したら、快く「手伝いにおいでよ」と言ってくれた。

 まずは川上村廻り目平のテントサイトで、翌日にヘリで山小屋に上げてもらうための荷造りをする。1回で600kgも運べるらしい。こんなにたくさんの荷物の塊が空を飛ぶんだから、ドキドキしてしまう。ブルーシートに包んで「せーの、せーの」と息を合わせてモッコ(綱引きの縄を少し細くしたような縄を正方形に編んだもの。荷物を吊り上げるために使う。30kgはある)を引っ張った。

 荷造りが済んだら、今度は上で荷受けの準備。3時間歩いて山小屋まで上がる。私たちはヘリには乗れません!

 荷物を下ろすのは2ケ所。小屋の近くにガスや燃料を下ろす。残りの食材や飲み物(金峰山小屋には水がありません)燃料として使う薪は小屋から少し離れたスペースに下ろす。今年は雪解けが早いけれど、それでも地面は真っ白だ。ヘリのパイロットが操縦しながら確認できるよう荷物が下りる場所に、真っ赤なマーカーで雪の上にでっかい丸を付けておく。物を下ろして、次の荷物が来るまで7分ほど。あっという間にきてしまうから、すぐにスペースを空けなくてはならない。段取りも確認。それからモッコを引っ張ってきて、下ろし荷(山から下ろしてもらう荷物)の準備をする。

 金峰山小屋はうんちのタンクを下ろしている。うんちだって空を飛ぶのだ。話はそれるけど、雪が溶けた頃になると今度は空になったタンクを歩荷して下から上げるのだが、やっぱりすっごく臭くって、ひえぇと自然と駆け足で小屋まで背負ったことを思い出す。お陰でその夏は、今よりもスリムだった気がする。

小屋の外壁にヘリの風が押されて揺れまくる荷物

 翌日は青空。昨晩は風の音が気になったけど、今日は穏やかな一日だ。視界良好。早速、東京からヘリが飛んできて、まずは荷物を下ろす場所を確認していく。それから下にいる吉木さんと連絡を取り合って、まずは薪、それから燃料、食材たちを飛ばす。順調だ。下ろす場所は決して広いとはいえないスペースなのに、ヘリのパイロットの技術はすごい。機体をバックさせて入ってくる。

 あっという間に、全ての荷物が事故もなく順調に小屋に届いた。最後のヘリをみんなで手を振って見送る。下にいる吉木さんもほっとしていることだろう。さて、あとは私たちの出番。食材は全てヒーヒー言いながら冷凍ものから順に小屋に運び込んでいく。米なんてすっごく重い。でも荷物がたくさん届いて、空いてるスペースが埋まっていく、空のストッカーに食材が入っていくのは、なんだか嬉しい。

 全ての作業が終わってぐったりだったけれど、みんなでやり切った達成感があった。なんでもそうだろうけど、段取り、準備がいかに大切か。もちろん結果も大事だけれど。そして、1人ではとてもできないことだ。強力な助っ人を見つけないと。そんなことを思いながら、帰路についた。

営業どうのこうのと言っているあいだも、山は変わらず静かな時間が流れているだろう