5月に入り、今シーズンの営業の詳細が決まりました。今年は6月1日からオープンします! そして、この連載『私、山小屋はじめます』が書籍化します。発売日は5月19日です。
お食事中の皆さま、大変失礼。今回は山小屋のお手洗いの話をしますよ〜。ここから先は意を決して読んでくださいませ。
■山小屋のトイレには、どんなタイプがあるの?

ひと昔前の山のトイレ事情については、台風の時に沢に流していたとか、常に垂れ流しだったとか、地下に浸透させて翌年にはカサが減っている、なんて聞いたこともあるけれど。し尿に混じったトイレットペーパーを山肌に流していて、遠くから見ると白い川で、近づくと臭うという山のトイレ問題もあったよね。
最近は、「うちはバイオトイレだから臭いもないよ」といったところや、浄化槽で分解後に簡易水洗の水に姿を変えて循環させているところ、ぼっとんトイレ式で汲み取りしたタンクをヘリで下ろしているところがあったり。トイレ事情はじつにさまざま。「バイオトイレ」と一口に言っても、テカリのようにおがくずや杉チップを使用して微生物の働きに助けてもらうトイレもあれば、分解酵素と消毒酵素を入れて酵素分解を促すバイオトイレもある。

以前働いた金峰山小屋には、2階建ての立派なトイレがあった。便器には穴が2つあり、うんちとおしっこに分かれて、それぞれ1階のタンクに落ちる。ちなみにトイレットペーパーもVU管を通って、その先にくくりつけられた土嚢の中に落ちる仕組み。
ヘリによる下げ荷時にはうんちのたっぷり入ったタンクにしっかり蓋をして、慎重に麓まで下ろすのだ。空っぽになったタンクは、背負子にくくりつけて再び小屋まで運んだ。洗った後のタンクとはいえ、立ち止まるとポタポタと垂れてくる液体を恐れながら急ぎ足で小屋まで駆け上がったのは、いい思い出。「運がついてラッキー」なんて言ってね。
■残すのは足跡だけ! エコ登山の試み

トイレの流れで恐縮だが、ここで尊敬するレジェンドを1人紹介したい。飯田市出身の世界的な登山家、大蔵喜福さんだ。ヒマラヤの8,000m峰を踏破して約30年間、デナリで気象観測を行ってきた方である。
そんなレジェンドは地元に戻って南信州山岳文化伝統の会を立ち上げ、長野県側登山口のある遠山郷を拠点にエコ登山の活動をしてくださっている。アプローチの長い長野県側にレンタルテントキャンプ場を作り(光岳には面平に、聖岳には西沢渡に設置)、携帯トイレブースを置いている。また光岳の登山道脇にもトイレブースを2か所設置してくださっている。「山に残すのは足跡だけ」 排せつ物もすべて持って下げよう、自然に負荷をかけずに山と向き合おう、楽しもうという取り組みである。

世界の山々を冒険してきた大蔵さんならではの視点が、いつも私に新しい価値観を運んでくれる。そして年齢を感じさせないパワーがある。山小屋を引き継いでからは、大蔵さんに助けてもらってばかりだ。大蔵さんは、世界の山の基本は排泄物も含めて人間の出したものは人間が持ち帰る。それがルールだと話してくれた。南アルプスの端っこから、日本中にこの取り組みが広がるといいな。
現状、小屋にはトイレがあるし、光小屋の取り組みはまだまだ道半ばなのだけれど、山で職住する者としては「これでいいや」ではなく、「これがいい」を探り続けて、いい塩梅を見つけていきたいところだ。