■どうなっちゃうの今年の営業
一旦は素泊まり営業と決めたものの、いまだ役場の担当者とやりとりを続けている。山の関係者の方々からいろんなご意見をいただいて、知らないこと、考えなければいけないことが、かなりたくさんあることを知る。自分の「知っている」のラインが低すぎて……。
もうぶっちゃけ不安しかない。なんでこんなに不安なのだろう。知らないから不安なのか? 知らないことって不安だもんな。一人納得。それら「知らない」を端っこからじゃんじゃん「知っている」に変えていかないと、もうこの不安の嵐からは逃れられない…よし。
そんなふうに私が決意を新たにしている最中、南アルプス南部の山小屋が全て休業することが発表された。東海フォレストの管理する山小屋、そして井川観光協会の山小屋、全部である。
残るは私の光岳小屋のみ。小屋開きを待ってくれている方々には申し訳ないけれど、簡単に決断はできない。まだまだ考えなくてはいけない。
■ヘリの講習会に参加してみる
とは言っても、季節は待ってくれない。少しずつでも小屋の準備を進めていかねば!
ある日、鳳凰小屋のオーナー、細田さんがヘリの講習会に声をかけてくれた。光岳小屋も鳳凰小屋と同じ会社、「アカギヘリコプター」さんにお世話になるのだ。
南アルプス市役所で行われた講習会には、南アルプス北部の山小屋の皆さんが顔を揃えていた。山の人たちと町で会う。ちょっと照れくさいのは、わたしだけかな。山で言ったら、甲斐駒ヶ岳、北岳、鳳凰三山、そして、野呂川上流にある両俣小屋の皆さんだ。
両俣小屋の星さんは、「なに〜? やるんだってぇ〜! 大丈夫なの? 心配だなぁ」と声をかけてくれた。「心配だよな」と細田さんもうなづく。思わず、「私も心配です」なんて答えてしまう。星さんは「40になったの? まだか? まだなら大丈夫だ。若いうちは苦労を買ってでもしろって言うし」なんて言う。これから私は苦労を買うのか……。
講習会はアカギヘリコプターの営業部の方が来てくれて、安全管理の話や荷物の梱包や荷上げ、荷下ろしについての説明をしてくれた。実際に担当の方に挨拶もできて、一歩前進した気持ち。
車で行けない山小屋は、物資をヘリで上げるか、あとは足で運ぶことになる。他の山小屋も同じだけれど、ヘリで荷上げができなければ、とても山小屋の営業はできない。登山客や小屋のスタッフの食糧、小屋の修繕や登山道整備のための資材や道具。暖房や発電用の燃料なんてすごい量になる。歩荷をしてみるとしみじみ感じるが、ヘリと比べると、人が背負える量なんて微々たるものだ。ヘリの荷上げってありがたい。
担当の方の「私たちはもちろん、安全は皆さんの協力があってこそ」という言葉に背筋が伸びる。お互いに安全第一。しっかりやらなきゃ。それにしても、ヘリの荷上げにかかるお金には仰天だ。今までは高い、高いと聞くばかりで、どこの小屋で働いていても、実際の金額を目の当たりにすることはなかった。
いま自分が当事者になってみると、山小屋の方達の苦労、わかります。