間もなく9月だというのに、太陽は衰え知らずで猛烈な暑さが続いています。

 夏休みシーズンも終わりに近づいてきましたが、なかには、この夏は忙しくて登山や遠出ができず、ちょっと残念な気持ちになっている方もいらっしゃるでしょう。しかし、あきらめるのはちょっと早い! 身近な自然の素材を使い、残暑の強い陽射しを生かして、夏の思い出を心にしっかりと残すことができる方法があるのです。それが「日光写真」です。

 また、この時期になっても「まだ自由研究をまだやっていない! 」と焦っているお子さんがいるご家庭もぜひチャレンジしてほしい必見情報です!

■日光写真とは

 中高年の方の中には、子どもの頃の科学雑誌の付録についていた「日光写真」で遊んだことを覚えている方も少なくないと思います。また、かつては、建築図面の複写にも多く使われていました。筆者もその世代の一人ですが、もう何十年も記憶の片隅に追いやられてしまっていました。しかし、この夏、たまたま近くのフォトサロンで日光写真の作品展を見る機会があり、あまりの懐かしさと日光写真の美しさに魅せられ、食い入るようにそれらの作品に見入ってしまいました。

 日光写真は、別名サイアノタイプ(Cyanotype)といい、写真の古典的な技法のひとつです。1842年にイギリスのジョン・ハーシェル氏(1792~1871年)によって発明されました。日光に反応する感光材を使用するため、日光が当たらないところは反応が起きず、そのコントラストで像を生み出します。

■日光写真の準備はシンプル

日光写真は、道具もシンプル。身近な道具で代用することも可能です

 それでは、さっそく日光写真の制作準備をしてみましょう。

 日光写真は、2種類の薬剤を使って感光液を作るのが基本ですが、私はもっと手軽な、感光液を塗ってある印画紙を通信販売で購入しました。A4版で1枚100円程度です。日光に当たるのを防ぐため、黒いビニール袋に入っています。

 その他、バインダー、透明な下敷き、バット、クリップ、オキシドールを用意しました。後述するように、これらのものがなくても、様々な身近なもので代用することも十分可能です。日光写真は技法もシンプルなら道具もシンプル。その単純さも大きな魅力です。

■太陽と会話しながら青の変化を楽しもう

自宅の庭でシダの葉を採って素材としてみました
ギラギラした太陽に当てながらのウェイティングタイム。どんな具合か見てみたくなりますが、じっと我慢。まるでキャンプでご飯を炊く時のようです
シダの葉を取ると、葉のところだけ感光していないのがわかります。楽しみが増してきました

 準備ができたら、素材集めをします。

 素材は何でも良いのですが、なるべく細かい模様の葉の方がデザインを楽しめると思い、まずは、シダの葉を採ってきました。葉の凹凸がたくさんあるので、見ているだけでも楽しいものです。

 日の当たらない場所で、印画紙の上にシダの葉を置き、バインダーと透明な下敷きで挟み込みます。バインダーは段ボール紙や薄い板、透明な下敷きはクリアホルダー等で代用可能です。

 日光に当てる時間は、10分程度が基本のようですが、光の強さによって調整をする必要があります。筆者が感光中、急に曇り空になってしまい焦りましたが、感光時間を30分間に延ばすことにより問題のない仕上がりになりました。

 このように、日光写真は太陽や影などと制作者が会話をしながら露光時間を決めるのです。何千分の一秒というシャッタースピードで撮る現代のカメラとは全く違う、のんびりした時間の経過を楽しみましょう。

■水の中から浮かび上がるドキドキワクワクの作品たち

水で感光材を洗い流すと、くっきりと像が浮き出てきます

 「まあ、このくらいかな?」程度のアバウトな感覚で感光をストップさせ、水で感光材を洗い流します。水をバットに入れてもよいですし、自宅でしたら、そのまま流しに直行してもよいと思います。水に入れるまで距離や時間がある場合は、余計な光を当てないように新聞紙にくるんだり、黒いビニル袋に入れたりして移動するとよいと思います。

 水に入れた瞬間から、ふわふわっと像が浮かび上がってきます。日光写真の制作過程で最もドキドキする瞬間です。細かいシダの葉の一つ一つがくっきりと写っていてほっと一安心。10分ほどしたら、10倍に薄めたオキシドールの水溶液で洗います。酸化が進み、さらに青が引き締まった感じになります。最後に再び水洗いをして完成です。筆者の記念すべき「懐かしの日光写真第1号」となりました。

 手順も簡単なので、夏休みの自由研究にももってこい。親子で楽しく活動できること間違いなしです。

■奥が深い日光写真の世界

シダ以外の素材も入れ込んで、夏の終わりのにぎやかな自然の世界を焼き付けてみました

 シダの写真がうまくできたので、今度は、いろいろな素材を混ぜてみることにしました。ネコジャラシの穂、アブラゼミの翅、野ブドウの葉と若い実です。どれも夏の終わりらしい近所の自然です。素材を集めていると、今まで気づかなかった様々な植物の葉の形があることに気づくことができました。日光写真を通して、身近な自然の深い多様性に目が向くようになったのは小さな驚きでした。

 それらを日光写真にしてみると、ネコジャラシは細かい毛の一本一本まできれいに写し取ることができていました。しかし、ネコジャラシは立体的で厚みがあったので、下敷きに挟む時に少し課題が残りました。毛の量をカットして減らすなど、さらに工夫するとよいかもしれません。また、アブラゼミの翅(左中央)は、思ったより光が抜けず、べたっとした感じに仕上がりました。これからの季節、セミやトンボが生涯を終える頃となります。ミンミンゼミやツクツクボウシ、トンボ類などの透明な翅を使ってみると、きれいな翅写真ができるのではないかと思っています。

 日光写真は、現像の際、「やった、うまく表現できた!」「もう少し光に当てた方が良かったな」など、思わず独り言の連続となります。出来具合には多少の差がありますが、それも許容の範囲内。すべて自分のかわいい作品たちとなるに違いありません。

色紙に感光液を塗った印画紙なら、また一味違った楽しみ方が生まれてきます

 また、赤や黄色など様々な色紙に感光液を塗った印画紙も市販されていて、それらを使うと、普通の日光写真とはまた一味違った雰囲気の写真となります。猛禽類の羽やヒノキの葉も思った以上に写し取ることができました。

 さらに、自分で感光液を作れば、布やガラスなど様々なもので日光写真を楽しめるようです。日光写真でデザインした自作のトートバッグをアウトドアに持ち出すなんてカッコよさそうですね。 最近では、日光写真を使った製品を売っている専門店まで登場するなど、静かなブームとなっているとのことです。

 暑かった日々も間もなく終わりを迎えることでしょう。今年の夏の思い出を、太陽と語り合いながら印画紙にしっかりと焼き付けてみてはいかがでしょうか。