北の山間部では多くの積雪の便りが聞こえてきますが、人里は紅葉の終わりの時期を迎えています。シジュウカラやメジロなどが混群を作り、餌を探しながら賑やかに流れていく姿もよく見かけます。また厳しい寒さを避けて、北国や高山からやってきた冬の鳥たちも揃い始めてきました。
この日も、そんな鳥たちに会うために近場の公園にのんびりバードウォッチングにでかけましたが、思いがけない光景に出会ったのでした。
■冬鳥の代表選手「ジョウビタキ」
北海道や北日本の一部などを除く全国の低地に渡ってくる冬鳥の代表格がジョウビタキです。市街地の住宅街などでも普通に見ることができます。秋になると「ヒッ、ヒッ、ヒッ」という澄んだ声でよく鳴くので、渡ってきたことがすぐにわかる野鳥の一種でもあります。最近は温暖化のせいでしょうか、春になっても北国に渡らないで日本で繁殖する個体の報告も相次いでいます。
オスとメスでは色彩が大きく異なりますが、バードウォッチャーの間では、オスは「ジョビ男」、メスは「ジョビ子」と親しみをもって呼ばれています。地味な色合いではあるものの、丸い目がクリッとしたメスが特に人気のようです。
■鏡に映る自分と「終わりなき戦い」に挑む
多くの野鳥は、春から夏にかけての繁殖期に縄張りを作って子育てをします。しかし、繁殖期を終えると縄張りを解いて、群れになったり、他の野鳥と混群を組んだりして過ごすものも少なくありません。しかし、ジョウビタキなどの一部の野鳥は、繁殖期以外でも縄張りを形成する生活をしています。
ある日、私が公園の駐車場に車を停めると、すぐにジョウビタキがやってきました。優しい顔をしたメスです。そして、パッと飛んできて車の窓枠に止まり、ドアミラーを覗き込むや否や「何もいない」鏡に向かっていきなり飛びかかったのです。
ジョウビタキは、ドアミラーに映る自分の姿を、縄張りに侵入してきた他のジョウビタキだと思い、戦いを挑んだのです。嘴で突っつき、足で蹴りを入れるような激しい動きです。しかも、何度も何度もアタックを繰り返します。ひと通り戦いを終えると、ドアミラーの上で糞をしました。ホッとしたのか、それとも敵に糞を振りかけるつもりのかは私にはわかりませんが、このような行動がよく観察できました。
その行動は、私の車だけではなく、近くに停まっていた他の車にも及びました。しかも、その車はドアミラーを畳んでいるにもかかわらず、わずかな隙間をのぞき込んで、いるはずもない「架空の敵」をわざわざ見つけ出すほどの熱の入れようです。その車にはよほど強い思いがあるのか、ドアにはたくさんの糞をした跡がついていました。これは人間にとっても困ったものですが、観察をしていると、あまりにも頻繁にやって来てアタックを続けるので、ジョウビタキのエネルギーを無駄に浪費してしまっているのではないかと心配になりました。車が停まっている限り断続的に戦いを続けるのでしょうか。少なくとも私にはそのように思えました。それを終結させるには、ドアミラーを不透明な袋などで覆うなどの目隠しをすると良いようです。