11月に入り、少しずつ冷え込んできましたね。紅葉も各地で見ごろを迎えようとしています。この時期、登山やキャンプをしていると「あれ?」 服や靴に付いているものがある……。“ひっつき虫”と呼ばれている植物の種子(実)たちです。筆者の住む長野県ではこれらを総じて“バカ”と呼んでいたりします。呼び名の由来は諸説ありますが、いざ取り除こうとすると時間がかかる厄介な存在です。

 じっくりと観察してみると、そこには種の保存・繁栄をかけた懸命な努力、創意工夫の痕跡が見られます。“ひっつき虫”のひとつ、野生のゴボウの実の形状をヒントに面ファスナー(マジックテープ、ベルクロ)ができたとも言われています。

■いつの間にかくっついている“ひっつき虫”

気が付くとくっついている“ひっつき虫”。これはオナモミの一種

 “ひっつき虫” または “くっつき虫” などと呼ばれる植物は何種類もあります。直接人体に害を及ぼすわけではないですが、そのまま衣服に付けたままだと方々で撒き散らすことになるし、チクチクと痛いものも。一刻も早く片付けをして家路に就きたいのですが、それを邪魔する厄介ものです。

 意地悪をされているようで癇に障り、試しに写真に撮って拡大してみると、そこには驚愕の姿がありました。凄まじい形状! 「どこかに連れてってほしい」という思いが、ひしひしと伝わってくるようでした。

■“バカ”とは失礼!?  知恵の結晶「センダングサ」

花が終わり、実になり出したセンダングサ

 地域にもよりますが、近年その勢いを増すように蔓延っているのが「センダングサ(センダンソウ)」の仲間です。葉が「栴檀(せんだん)」の葉に似ているところから名前が付いたキク科の一年草。いくつか種類があり、環境にもよりますが夏から初冬にかけて小ぶりで可憐な花を咲かせます。帰化植物の「アメリカセンダングサ」もその仲間です。

無数の棘が衣服に刺さっています。表面がツルツルした硬い素材の生地なら防げます

 花の時期以外は“雑草”として目に留まらないかもしれません。しかし秋頃に実が付くと、その存在をイヤでも実感することになるでしょう。登山やキャンプなどのアウトドアアクティビティだけでなく、近所の散歩の後ですら、いつの間にか無数の棘のような種子たちが衣服に“ひっついて”います。

クローズアップしてみると、まるで凶器のよう! 棘の先端、種にもそれぞれ別向きに“カエシ”があります

 なぜこうもたやすく付着するのか、気になってクローズアップしてみると……。まるで凶悪な武器のよう!  拡大してわかる“バカ”の知恵がありました。

 放射状に広がった種の先には2〜4本の棘が出ており、その部分が衣服に刺さるようになっています。さらに拡大してみると、そこには無数の極小の棘が逆向きに生えていました。いわゆる“カエシ”の役割で「刺さりやすく抜けにくい」を実現しているのです。さらに本体(種)から生えている棘は逆向きになっています。つまり、2重のバックアップ構造となっているのでした。