暖かい日が続いていた秋も終わり、いよいよ冬に入ろうとしている。アウトドアでの活動を終えて、テントや車に戻ってくると「あれ?」服や靴に付いているものがある……。“ひっつき虫”と呼ばれている植物の種子(実)たちだ。
筆者の住む長野県では総じて“バカ”と呼んでいたりもする。呼び名の由来は諸説あるが、そのまま付けたままにしておくわけにはいかない。取り始めると時間がかかる厄介な存在だ。しかし、じっくりと観察してみると、そこには種の保存・繁栄をかけた懸命な努力、創意工夫の痕跡が見られて非常に興味深い存在だ。
■「どこかに連れてって」“ひっつき虫“
“ひっつき虫” または “くっつき虫” などと呼ばれる植物は何種類もある。直接人体に害を及ぼすわけではないが、そのまま衣服に付けたままだと方々で撒き散らすことになるし、そもそも気に触る。
秋から冬、暗くなってくると気温も下がり、一刻も早く片付けをしたり家路に着きたいのだが、それを邪魔する厄介な存在たちだ。
意地悪をされているようで癇に障り、試しに写真に撮って拡大してみると、そこには驚愕の姿があった。凄まじい形状!「どこかに連れてってほしい」という思いが、ひしひしと伝わってくるようだった。
■“バカ”とは失礼! 知恵の結晶「センダングサ」
地域にもよるだろうが、近年その勢いを増すように蔓延っているのが「センダングサ(センダンソウ)」たちだ。葉が「栴檀(せんだん)」の葉に似ているところから名前が付いたキク科の一年草。いくつか種類があり、環境にもよるが夏から初冬にかけて小ぶりで可憐な花を咲かせる。帰化植物の「アメリカセンダングサ」もその仲間だ。
花の時期以外は“雑草”として目に留まらないかもしれないが、秋頃に実が付くとその存在をイヤでも実感することになる。登山やキャンプなどのアウトドアアクティビティだけでなく近所の散歩の後ですら、いつの間にか無数の棘のような種子たちが衣服に“ひっついて”いるからだ。
なぜこうもたやすく付着するのか、気になってクローズアップしてみると……。まるで凶悪な武器のよう! 拡大してわかる“バカ”の知恵があった。放射状に広がった種の先には2〜4本の棘が出ており、その部分が衣服に刺さるようになっている。さらに拡大してみるとそこには無数の極小の棘が逆向きに生えている。いわゆる“カエシ”の役割で「刺さりやすく抜けにくい」を実現している。さらに本体(種)から生えている棘は逆向きになっている。つまり、2重のバックアップ構造となっているのだ。