季節は初夏から夏へ。渓流では水の流れと新緑のハーモニーが美しい季節です。水辺で過ごす時間が心地よいですね。

 水のそばには多くの生命が息づいています。魚や鳥、そして昆虫(それ以外の生物も)たち。その昆虫のなかには、一生のほとんどを水中で暮らす“水生昆虫”たちがいます。初夏から夏の風物詩であるホタルの他、アメンボやトンボ、ゲンゴロウなどよく知られた虫たちも水生昆虫です。

 渓流釣りフライフィッシング)のために訪れたのは、新潟県十日町市のとある流れです。釣りはもちろんですが、この時期、タイミングがいいと水生昆虫たちが一斉に羽化する感動的なシーンに出会えるので、それも楽しみにしていました。

■徐々に増えていく虫たち、カゲロウの「スーパーハッチ」に!

藤の花が控えめに咲く初夏の川辺

 すっかり緑が濃くなった里川では艶やかな紫の花穂を垂れた藤の花が、渓に落ち着いた彩りを添えていました。ほのかに漂う香りも雅やかで心が和みます。そこかしこに咲いているタニウツギのピンクにも風情を感じずにはいられません。

 渓流釣り(フライフィッシング)のために訪れたポイントでは水嵩が上がり、水勢を増していました。よく観察すると、ちらほらとカゲロウたちが飛び交っていました。一番多いのはヒメヒラタカゲロウでしょうか。スピナー(成虫)に混ざって水中から羽化したばかりのダン(亜成虫)もいるようです。さらにボリュームのあるマダラカゲロウの類やシマトビケラの一種も混ざっています。

 足元に流下してきている虫たちの亡き骸を見送るように観察し、ふと顔を上げると、優しく差す薄日に浮かび上がる大量のカゲロウたち。まるで雪が舞っているようで幻想的な光景にすっかり見とれてしまいました。

夕暮れ近づく川辺でしばらく待っていると、ヒメヒラタカゲロウたち(他の種類もまざっています)の見事なスーパーハッチに出会えました

 虫たちの羽化のタイミングには様々な要因が絡み合います。予想どおりには行かない分、うまく遭遇できると喜びもひとしお。大量の虫たちが一斉に羽化する“スーパーハッチ“ともなると「なんとなく起きそう」という予感を頼りに、足繁く川へと通うのみです。

 虫たちに囲まれての幸せなひととき。しばらくすると、まるで魔法のように虫たちの姿は消えています。薄雲の向こう、西の空がうっすらと赤く染まっているのが印象的でした。

■「生きた化石?」 カゲロウや水性昆虫たち

エルモンヒラタカゲロウ。突如水面から現れる姿は、まるで魔法のようです

 “水生昆虫”を代表するのが「カゲロウ」ではないでしょうか。その姿を見た(認識した)ことがなくても、その言葉は聞いたことがある人が多いのでは? 光の屈折現象としての「陽炎」も有名で、儚いものを例えるときに使われることがありますね。実際、どちらも儚い存在です。

 国内にも数多くの種類が生息していますが、恐竜時代からの生き残り、「生きた化石」とも言われています。幼虫は長い時間を水中で暮らした後、水面付近で脱皮して亜成虫・成虫へと変態します。口が退化しているために食事を摂ることもなく、川の周辺を舞いパートナーと巡り会い、交尾をし、やがて命が尽きます。儚い生を実感させられます。

 水面付近で羽化した(亜)成虫が突如水面に現れ、儚げに舞う姿は、まるで妖精のようです。完全変態するため、まずは亜成虫という状態がありますが、種類ごと、さらには雄雌でも見た目が微妙に違います。よほど慣れていないと見分けるのは難しいでしょう。