山々の紅葉がピークを迎えた2023年10月28日、渓流魚(イワナ)の“人工産卵床造成”作業が、新潟県魚沼市の山中にある銀山湖(奥只見湖)に注ぎ込む渓流にて開催されました。かつては山里だった集落が沈む銀山湖。その広大な湖を中心とした一帯は、山懐深い森とそこに生きる動植物たちの宝庫であり、山の恵みに満たされた土地です。当然、渓の魚たちも豊富で大型になる魚が多いです。そのため解禁中には太公望が押し寄せる、釣り人憧れの釣り場でもあります。また釣り人としても著名な作家・開高健が愛した場所でもあり、記念碑が建っていることでも有名です。
実は日本の渓流、特に本州の大都市近郊の交通アクセスの良い川などでは、天然魚(この定義も怪しいですが)はほとんど居らず、養鱒場で生まれた卵や稚魚、養殖された成魚を放流することで魚の数を保っている部分が大きいです。では、山奥の川なら安心かというと、一概にそうとも言い切れません。様々な理由で生息環境が変化していく現代、このままではいずれ天然魚はいなくなってしまうでしょうし、放流魚、はたまた外来種ばかりの河川が増えてしまいます。“ほっておいても毎年魚が釣れる”時代は、終わりを迎えようとしているのが悲しい現実です。これは海も同様ですね。
そんな中、少しでも自然に近い環境で、健全な魚たちが泳ぐ流れを取り戻したい、持続させたい、そういった思いで活動しているグループも増えてきています。
今回行われたのは、イワナの人工産卵床造りです。1974〜1975年、先出の開高健氏を筆頭に地元の賛同者や志ある釣り人たちが中心となって立ち上げた「奥只見の魚を育てる会」が継続して行なっている活動の一環です。
他所で育った魚ではなく、極力自然な形でその川で育った魚の繁殖率を高めるため、産卵に適した場所を増やす作業です。
※詳しくは、昨年(2022年)に行われた作業の様子を新潟のアウトドアライフストア「WEST」さんが動画で用意してくれています。
当日はあいにくの空模様で、時おり強まる雨脚を気にしながらの作業となりました。参加者たちは産卵床を設置する場所ごと、グループに分かれて川に入っていきました。その川にあるものを活かして造成するため、まずは適した石を川床から掬い上げ、サイズごとに分かれるように篩(ふるい)にかけます。そして人工産卵床を造る場所まで運んでいきます。これらをひたすら繰り返すだけの地味な作業ですが、意外と重労働です。時おり作業の手を止め、腰を伸ばしながら周囲の山肌を見渡すと、雨に煙りながらも鮮やかな色彩が目に飛び込んできました。まるで山々に穏やかに見守られているかのようで、心が和みました。
※11月2日〜5日には「宮ノ淵再生プロジェクト」として、バーブ工法による宮ノ淵復活作業が北ノ又川で開催される予定です。会員以外でも参加できますが、申し込みはすでに締め切られています。興味のある方は会のHPに報告レポート等が発表されるはずですので覗いてみてください。
今回は(僕自身は釣りに関して派生した)環境維持のための活動でしたが、登山でもキャンプでも何でもいい、できれば色んな種類の野外での“遊び”を多くの人に楽しんでもらいたいです。自然への理解・関心は、野外での活動を通じて“楽しむ”ことがスタートだと思います。恩恵を享受していない対象へ愛情を持つのは相当難しいですよね。自然保護の知識だけでは、本質を理解するにも無理があると思います。めいっぱい楽しませてもらったからこそ、感謝や大切にする気持ちが生まれるものです。僕自身、子どもの頃に親に連れられて山や川、海で思う存分遊んだ楽しさが、職業を含めて今の活動に繋がっています。自然、アウトドアでの活動は興味の対象への理解が深まるとともに(環境は繋がっているので)範囲の対象が広がり、より多面的に自然と向き合うことができるようになるかと思います。
なるべく年齢の若い人や子どもたちにこそアウトドアでの体験をしてほしい。やがて自然への関心が高まり、維持することの大切さを感じる人間が多くなっていけば、おのずと持続可能な未来へと繋がっていく気がしています。