初夏、登山や釣りで沢沿いを歩いていると、小鳥や虫たちの声に混ざって“美声”が響いているのを聞いたことがある人も多いだろう。渓に響くどこか懐かしい気持ちになる声。その正体はカジカガエルだ。

■声の主・カジカガエルとは

 カジカガエルは日本の固有種で、本州・四国・九州に広く分布する。清流に生息するが、年々数が減っており、絶滅危惧種・準絶滅危惧種に指定されている都道府県もある。以前はどこでもその声を楽しむことができたのだが……。

オスのカジカガエル。自慢のノドでメスを引き寄せる

 ちなみに美声で鳴いているのはオスで、繁殖のためにメスを誘っている。声が聞けるのは春から梅雨が明ける頃までだ。やはり歌声が優れている方がモテるのだろうか?

■清流によく似合うソプラノ

 緑の渓、瀬のせせらぎの音に混じってウグイスのさえずりが響いている。さらにカジカガエルのソプラノが加わると、つい足を止めて聞き入ってしまうほど美しい音色だ。日本のカエル業界で一番! そう言われるのにも納得できる。

初夏の清流が彼らのステージ。生息環境が整っていれば民家のそばにも棲んでいる

 名前の由来となったシカの声にも似ているが、より瑞々しく優しげで、聞いているだけで喉が潤うような感覚がある。山深い場所でなくても、町外れの里川にも生息しているところも多い。

 カジカガエルは日が暮れても鳴いているので、時期的にもホタルの鑑賞と合わせて楽しむこともできる。俳句の季語にもなっているくらいで、古き良き日本の原風景を彷彿とさせてくれる、貴重な存在だ。

■声の主を発見!

声の主は、近くで鳴いていないと本当に見つけにくい

 声を頼りに瀬の石の上を探していると…… いた! 体長は5cmほど。周囲によく馴染んでいるので、鳴いていないと簡単には見つけられない。

懸命にノドを震わせて歌声を聴かせてくれた
鳴き終わると周囲を飛び交う虫たちに目もくれず、ひたすら待ち人が来るのを待っていた

 カメラをセットし、しばらくそっと待ってみる。期待しすぎてプレッシャーを与えてはいけないので、ちょっと離れて他所を見たりして待っていると、やがて麗しい美声を聞かせてくれた。膨らませた喉を懸命に震わせている姿が愛らしい。