オオルリなどの渡ってきたばかりの夏鳥を探して、渓流沿いを歩いていると、道端の岩から「グッ、グゥ」「グググググッ」「グルックッククク」などの低い声が聞こえてきた。鳴き声の主を探してみたが見当たらない。まるで、岩が鳴いているようだ。
■岩の隙間から聞こえる不思議な声
渓流脇の林道にちょろちょろと注ぐ、細い清水の流れ。それまでミソサザイの元気なさえずりが響いていた空間に、全く異質な鳴き声が響いていた。初めて聞く声だ。いったい何が鳴いているのだろうと、岩の隙間に頭を突っ込むようにして覗き込むがわからない。姿が全く見えないのだ。「まさか妖怪!?」
まずは、その声を聞いてほしい。
したたる水と声の質から、カエルであろうことは想像ができたのだが、とにかく姿が見えない。隙間という隙間を、ローラー作戦を展開しながら探索していると、隙間で動くものを見つけた。すかさずスマホのライトを点灯してみると、それはかわいらしいサワガニだった。「なんだよ、驚かさないでくれよ」思わず、声が出てしまう。
目の前の岩の隙間からたくさんの声が聞こえてきて、そこに複数のカエルと思われる生物がいるのは間違いないのだが、全く姿が見えない。スマホのライトを当てても、鳴き声がやむことがないということは、かなり岩の奥の方に潜んでいるものと思われる。ううむ、これは難敵だ。岩場は不安定で、小さな岩なら取り除くことは可能だが、それは彼らのすみかを壊すことになるので避けたいところだ。
頭の中で、これまで山の中で出会ったカエルたちの姿を必死に思い浮かべてみた。すると、丹沢や富士山麓で見かけた「タゴガエル」が頭の中でヒットした。
■タゴガエルとは
タゴガエルは、低地から標高2,000メートル以上にも幅広く生息するカエルだ。アカガエルを一回り小さくした感じで、産卵期以外は、林床などを主な生息場所としているため、渓流沿いの道で出会うことが多いのだ。渓流釣り師の方なら、見かけたことがある人も少なくないはずだ。
繁殖期は、4~5月が普通だが、暖地では3月から、寒冷地では6月にまで及ぶという。繁殖期以外には普通に見ることができるのに、伏流水の流れる岩の隙間で繁殖をするので、姿を見つけるのが難しいのだ。
卵は大きくて数は少なく、オタマジャクシは体内の卵黄を消費するだけで、餌を全く食べずに子ガエルになるというなんとも不思議な生態をするらしい。身近にいるヒキガエルが小さな卵をたくさん産むのとは大違いだ。