もし、これから渓流ルアーフィッシングを始めようとする人がいたら、筆者は渓流ルアーのスプーンを迷わずおすすめするだろう。

 渓流ではミノーの方が一般的ではないのかと思われるかもしれない。たしかにミノーは使いこなせれば抜群の実釣力があるが、反面、初心者が思い通りにアクションさせることは難しい。

 ほかにも、渓流ルアーで代表的なものにスピナーというブレードをクルクル回して魚を誘うルアーもあるが、これも川の流れがさまざまに変化する渓流では、それほど使いやすいとはいえない。

■スプーンの魅力とその実力

かわいらしいスプーンたち

 その点、スプーンならキャストさえできれば、あとは水深に応じてゆっくり巻くだけでとりあえずはオートマティックにアクションし、魚を連れてきてくれる。

 そもそも、スプーンはそれ自体とても魅力的なプロダクトだと思う。1枚の金属片を曲げ、穴を2個開けただけのシンプルさ、ルアー界のミニマリストとでも言うべき存在で、女性用のアクセサリーに見えなくもない。

 また、この物価高のご時世、渓流用ミノーが1個1,000円超なのに対し、スプーンは500~800円で手に入るのもオススメする理由のひとつだ。

■雨後の支流へ、スプーン片手に原点回帰の釣行へ

増水気味の川を歩く

 7月中旬、数日降り続いた雨がようやく上がった朝、筆者と友人は普段行く源流域は増水で濁流になっているだろうと判断し、降雨による影響が比較的少ないダムに流れ込む小さな支流へ向かうことにした。

 今回はお気に入りのミノーで良型のヤマメを狙う釣りではなく、子どもの頃のように、ただ無心にスプーンだけで釣ろうと決めた。なんとなく小学生の夏休みのような気分だ。

 車を停めて河原へ降り立つと、前日の雨の余韻が空気の奥に残っているような、ひんやりとした湿気を含んだ風が通り抜けた。濡れた岩の表面に、わずかに陽が射す。その反射がきらきらと目に刺さり、川が呼吸しているようだった。