■初夏の渓流、カゲロウたちが一斉に羽化して飛び交う“スーパーハッチ”
向かったのは新潟県、信濃川水系のとある支流の中流部です。日中、違う場所で水生昆虫の観察後に移動している途中にも、カゲロウのまとまったハッチが見られました。
少し焦りつつ目指すポイントに到着すると、まさに本番開始直前でした。徐々に飛び交う虫たちの数が増えていきます。どうやら今夜の主役はオオマダラカゲロウのようです。カゲロウのなかでは大型で成虫は16mmほど。メリハリのあるくっきりとした風貌が魅力的です。
18時前から始まったスーパーハッチ。18時30分あたりが数的にはピークでしょうか。時間の経過とともにメインのカゲロウの種類も変わっていきます。先ほどまでのオオマダラカゲロウがスピナーフォール、成虫たちが水面を漂っています。次に飛び交っている集団を構成するのは、エルモンヒラタカゲロウが優勢になっているようでした。いずれにせよ、わずかにカワゲラが混ざる以外は、見渡す限りのカゲロウの世界が広がっていました。
とにかく懸命に生を謳歌するカゲロウたちに、見ているこちらも興奮して目が離せません。山の端に消えゆく西日が神々しく光を放っています。そのなかを飛翔するカゲロウたちの姿は、まるで雪が舞っているかのよう。
川辺に立っている僕が邪魔なのか、ときおりぶつかってくるようなカゲロウたち。おそらく最大の目的である交尾は飛翔したまま行われますが、そのタンデムフライトのような様は曲芸を見ているようです。力学的に無理があるのか、ふらふらとやってきてはしがみついてきます。
水面にはすでに力尽きたカゲロウたちが相当数流下しているのですが、一向にライズが始まる気配はありません。毎年このくらいのタイミングで訪れるのですが、いつもならライズも湧くように起こる、ヤマメの実績ポイントなのですが……。一応、フライロッドを組んで傍に置いていたのですが、出番はありそうにもありません。
とはいえ、この量の本物が流れていては、例えライズがあってもフライを咥えさせるのには難儀するでしょう。
19時過ぎ。いつしか虫たちの姿も宵闇のなかに消えていきます。瀬音の奥にカジカガエルの麗しい歌声が響いていました。
■翌日の夕べは「エルモンヒラタカゲロウ」の狂ったようなスーパーハッチ
翌日も日中は釣りをし、日が傾く前に昨日とは違う支流へ訪れました。こちらは長野県です。やや山地渓流の趣があり、ヤマメはおらずイワナたちが棲む場所です。以前はエルモンヒラタカゲロウのスーパーハッチに、イワナたちのライズ祭りを堪能したポイント。幾度も通った場所ではありますが、そのプールは土砂で埋まってもうありません。
ちなみにハッチが始まる前の2時間ほど、少し下流で釣りをしていました。連休中に相当叩かれ抜かれたりしたのでしょうか。好ポイントにいくらフライを流しても反応がありませんでした。一か所だけ、ウェットフライでしつこく粘っていたら何度かアタリがあるポイントがありましたが、どうしてもフックに乗り切らなかったです。
平瀬の脇で待ち構えていると、ポツリポツリと虫たちが目につき出しました。ヒメヒラタカゲロウでしょうか。次にハッチし出したのはエルモンヒラタカゲロウです。成虫のオスの胴体は白(透明)、メスは黄緑色なのですが、飛んでいるとどちらも同じに見えます。割合は少ないですが、とにかく淡い色合いで、長い2本のテイルが目立ちます。水面に舞う様子はまるで妖精のよう。独特のリズムでダンスをしているようにも思えてしまいます。その数は徐々に増えていきますが、いくら目を凝らしていても羽化の瞬間はわかりません。魔法か手品のように突如水面に現れます。
足元をよく見ると、まさに虫の息のカゲロウたちが引っかかっている場所がありました。岸際の水面ギリギリ、草の間に張られた蜘蛛の糸におもしろいようにカゲロウたちが捕まっています。糸を仕掛けた当の本人は見当たりませんが、本能なのか経験なのか、さぞかし大漁で喜んでいることでしょう。
前日同様、ライズは皆無です。これだけ虫たちが水中、水面で羽化して飛び交い、そして流下しているのにも関わらず、いったい魚たちはどこで何をしているのでしょう。
興奮冷めやらぬまま帰路に就きました。帰宅後、家のなかでふと視線を感じて壁に目をやると、なんとそこにカゲロウが! 実は川に近い我が家の周りでもこの時期いろんなカゲロウたちが羽化しています。網戸に大きな穴が空いているのを忘れていました。夏前には直さないといけないですね。
布団に入り目を瞑ると、カゲロウたちが舞い踊る光景がまぶたの裏に広がりました。カゲロウたちの夢を見られたかどうかは、覚えていません……。