4月中旬の栃木県・那珂川(なかがわ)。春の陽気に包まれた川辺では、瀬を渡る風が心地よく、澄みきった流れの中に、小石の一つひとつがはっきりと見える。そんな清流で、この時期に存在感を増す魚がいる。産卵期を迎え、体側に鮮やかなオレンジ色の縞模様をまとったウグイ。地元で「アイソ」と呼ばれる川魚だ。

 那珂川では古くから、このアイソが春の訪れを告げる魚として親しまれてきた。釣って楽しく、食べても美味しい。そんな魅力に惹かれ、今回は那珂川での春のアイソ釣りに挑戦した。果たして、清流の中で群れるアイソの姿を捉えることはできるのか。そして、その味わいとは? 春の那珂川で、その魅力を確かめてみた。

■清流・那珂川と春を告げる魚「アイソ(ウグイ)」

川の浅瀬で産卵行動に入ったアイソ(ウグイ)の群れ(以前別河川で撮影したもの)

 栃木県と茨城県を流れる那珂川は、那須岳(なすだけ)を水源とし、河口までおよそ150kmを流れる一級河川である。栃木県内を流れる川で唯一、海に注ぐまで名前が変わらない川としても知られ、古くから人々の暮らしと深く関わってきた。水質はきわめて良好で、「西の四万十、東の那珂川」と称されるほど。関東屈指の清流として名高く、アユをはじめとした魚の天然遡上が多い川でもある。

 そんな那珂川に、春の訪れを感じさせてくれる魚がいる。ウグイ(コイ科の淡水魚)である。日本全国に広く分布する身近な魚だが、この川では産卵期を迎える春の個体を「アイソ」と呼び、古くから親しまれてきた。

 3~5月頃になると、体側には婚姻色(こんいんしょく)として鮮やかなオレンジ色の縦縞が現れ、体表にはぼつぼつとした触感の「追星(おいぼし)」と呼ばれる小さな突起も現れる。普段の印象から一変したその姿は実に美しく、川辺に立つ人々に春の到来を強く印象づける存在だ。

冬に釣れた那珂川のウグイ。婚姻色が出る前はこのように地味な色合いをしている

 さらにアイソは、釣って楽しく、食べてもおいしい身近な川魚でもある。こうした特徴が重なり合い、那珂川流域では今もなお、春の風物詩として人々に親しまれ続けている。

■産卵期のアイソはどこにいる?  春の川を読み解く

アイソは瀬尻(せじり)にある綺麗な小石や砂利などに卵を産みつける習性がある

 春のアイソ(ウグイ)に出会ううえで手がかりとなるのが、この時期特有の行動変化である。産卵期を迎えた個体は、流れの速い瀬(せ)と、水深があり流れが緩やかな淵(ふち)が隣接するエリアに姿を見せることが多く、とくに瀬の流れが落ち着いて淵へとつながる「瀬尻(せじり)」周辺は、その気配を感じやすい場所だ。瀬尻に広がる綺麗な小石や砂利は産卵に適した環境であり、アイソたちはこうした場所に卵を産みつけるとされている。

 条件の整った場所では、複数のアイソがまとまって見られることがあり、水中に黒い魚影となって浮かび上がることも。こうした気配を捉えられれば、その周辺は有望なポイントといえるだろう。

 今回の釣行でも、事前にGoogleマップの衛星写真で地形を確認しながら瀬と淵が絡むポイントを探っていったが、残念ながらタイミングが合わず、思い描いていたような魚の付き場を見つけることはできなかった。春の川は穏やかに見えても、流れの速さや川底の状態によって魚の付き場は大きく変わる。アイソ釣りは、そうした変化を手がかりに、魚の居場所を探し当てていく釣りである。