今回訪れたのは、ユネスコ世界文化遺産に指定されている、京都屈指の古社、下鴨神社の第一摂社、河合神社である。

 ご祭神は神武天皇の御母神、玉依姫命(たまよりひめのみこと)。女性守護の神様で、ご利益は美人祈願・縁結び・安産・育児・学業・延命長寿など様々。特に美人祈願は有名で、玉依姫命が美しかったことから美麗の神、日本第一美麗神とされている。

 びびび美麗! 美しい&麗しい!! 少女マンガチックなパンチのある字面と神社とのマッチングが面白い。この日も女の子たちがいっぱいだった。

本殿。創建年代は不詳だが、日本の初代天皇・神武天皇の頃と伝えられている。天安2年(858年)の歴史書『文徳実録』の天安2年8月19日条に『鴨川合神』」とあるのが文献上の初見。賀茂御祖神社(下鴨神社)の第一摂社となったのは明治10年(1887年)

■美麗祈願は鏡絵馬で

 美麗祈願は、手鏡の形をした「鏡絵馬」で行う。とてもアッサリした鏡絵馬のお顔に、普段自分が愛用しているメイク用品で化粧を施し(もしメイク道具がなければ、神社で用意されている色鉛筆でもOK!)、裏に願いごとと自分の名前を記入する。

鏡絵馬(800円)。サザエさん風味でとてもかわいい

 完成したら本殿へ向かい、本殿右前の拝殿に置かれた鏡に自分を映して神様に祈願し、鏡絵馬奉納所に奉納する。これで、外見だけでなく内面も美しくなれるのだ!

霊験あらたかな鏡。別の世界が映り込んでいそうで、なかなかの迫力である。鏡の前にあるのは、なでると美肌になれるという「御白石」

 本殿の横には、重要文化財申請社殿「貴布禰神社」が。

貴布禰神社。水の神様として崇敬される御祭神は高籠神(たかおかみのかみ)

■続く大吉問題。やはり神様は厳しかった

 さて、いざ、おみくじである。美麗の神様は、私にどんなアドバイスをくれるだろうか――。

明るくこぎれいな社務所にあるシンプルなおみくじ(100円)

 結果、開いてみると「大吉」――。

 しかし、私はすっかり、大吉が出ても簡単に喜べない体になってしまっていた。というのも、このおみくじ連載で、細かいところを読むと、凶や小吉のほうが前向きで、大吉のほうが内容的に厳しいパターンが続いているのだ。

「開運うたがいありません」とあるのだが、それまでの忍耐がけっこう大変そうである

 今回もやはり……。待人は来るのが遅いし、失物は物にかくれて出てこないし、旅行は控えたほうがいいし、縁談は調いにくい。チッ(舌打ち)、納得いかない。

 この心のモヤモヤを拭い取ってくれたのが、河合神社にゆかりの深い、鎌倉時代前期の歌人で随筆家の、鴨長明である。

鴨長明(菊池容斎画、明治時代)

 鴨長明は、河合神社の禰宜(ねぎ)の息子として幼少時代を過ごし、自身も禰宜の職就任を望んでいたという。そして後鳥羽院から推挙の内意まで得たのに、希望は叶わなかった。失意のまま50歳で出家。「方丈記」などを記したのだった。

 鴨長明もアンラッキーな人だったんだなあ。もしかして私が今立っている場所に立ち、人生を憂いたりしたかもしれない。そう思い、彼が記した随筆『方丈記』を検索してみたら、こんな一節があった。

 

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と栖(すみか)と、又かくのごとし。」

(訳)流れゆく川の水は、絶えることがない。しかも新しい水と入れ替わり変化している。流れが止まっている水面には、泡が浮かんでいる。これもすぐに消え、新たに浮かび、ずっとふくらんだままの泡などない。人の命も家も財産も、同じ。儚く消えていく。

 長明――――ッ(泣)!!

 調べていた「美麗祈願」とは違うルートだが、なにやら美しい人生哲学に触れた気がした。

 世の中のものはすべて生まれて消えての繰り返し。ならばこだわっていても仕方がない。

 いやもう本当にその通りですよね。

 空を見ると、雨上がりの曇天から青空へ。鏡絵馬さんもニッコリ。

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