■すべてはいくたまさんの「平」から始まった
私にとっておみくじは一瞬吹くそよ風の如し。大吉にはしゃぎ、凶に舌打ちすることはあっても、木に結んだ瞬間内容を忘れる。そのくらいライトな思い入れであった。
ところがある日ふらりと立ち寄った生國魂神社が、私のおみくじ観を大きく変えた。
生國魂神社は商売繁盛のほか、縁結び、縁切りのご利益があるとして有名だ。大阪では「いくたまさん」と呼ばれ、非常に親しまれている神社である。近松門左衛門の「曽根崎心中」は生國魂神社境内が舞台にもなっている。境内を歩くと、井原西鶴や織田作之助の銅像が出迎えてくれる。
ただ、おみくじはいたって普通(と思い込んでいた)。よくある筒をガシャガシャ振り、みくじ棒を出し、一七番を引き、美しい巫女さんから紙をいただいた。いつものように、吉かなんかが出ると思いこんでいたのだ。
ところが、そこに書いてあったのは、いつもとは違う文字。
「平(へい)」
私は5度見した。「平」? 印刷間違いだろうか。が、その日は急いでいたこともあり、写真に撮り、木に結び付けて帰った。